わかりたい人のための加計問題 Part 5 特別篇その2

獣医学部新設に関する設置審の独立性

 

 以下のようなコメントもいただいた。これも大事なご指摘であると考えるので、本体部分で扱っておく。

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大学勤務の経験があるものとして加計学園問題や前川氏の発言に無関心ではいられず、ブログを拝読いたしました。特区の議事録を読み込むうちに、大きな気がかりが生じてきました。先生はこのPartで、文科省の設置審が特区の選定とは別の次元で行われる筈と断定しておられますが、本当にそうなるのでしょうか? 私もつい最近まで特区では、文科省の「門前払い」が解除されただけのように判断していたのですが、告示をよく読むと、平成30年4月の開学はすでに内定とも解釈できるのです。ですから設置審では、助言や留保付きの指導はあっても、「不許可」はできないのでは? 前川氏がこの時期に問題の顕在化を図ったのは、告示によって設置審が無力化されることへの危惧だったような気がします。 告示は以下です。

http://www.city.imabari.ehime.jp/kikaku/kokkasenryaku_tokku/2017011402.pdf

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 僕も、全く同感である。設置審の審査が、政治的に影響されることを懸念している。前川氏がこの時期に本問題を顕在化させたのは、まさにそういうことなんだろうと推察している。

 

 山本幸三担当大臣も諮問会議民間議員、Working Groupの有識者委員も口々に、加計学園獣医学部新設に消極的だった文科省を批判している。彼らが今主張している理屈は、以下のようなものである。

 獣医学部新設が「日本再興戦略改訂」に盛り込まれた以上、新設に向けて前向きに検討するのが規制改革の基本的考え方である。従って、問題があるとすれば「規制担当省庁においてきちっとその正当な理由を説明する必要[i]」があり、石破4条件の最後の部分に「本年度内に検討を行う」との記述があることから、それは2016年3月までに行わなければならない。しかし、その期限までに、規制を担当する文科省側は獣医学部の新設が困難あるいは不適切であるという理由を説明できなかった。従って、この時点で獣医学部の新設は決定している。2016年度になって、京都府獣医学部の新設構想を相談してきたこともあり、内閣府としては延長戦として検討してあげたのだが、文科省は「ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的需要」を明らかにすることも、「近年の獣医師の動向」も明示できなかったので、11月9日に新設方針が決定した。

 しかし、この文科省に挙証責任があるという議論は全く成り立たない。このことについては郷原信郎氏が詳述する通りであるので[ii]、ここでは繰り返さない。あと知恵で構成した無理筋の理屈である。

 

 現在の懸念は、官邸や内閣府文科省にものすごい政治的圧力をかけており、官邸に幹部人事まで握られている以上、文科省としては従わざるをえないのではないかということであるが、その懸念は国家戦略特区法の仕組みによっても補強されるように見える。

 各特区ごとに具体的事業を推進する主体となるのは、各特区ごとに組織される国家戦略特別区域会議(「区域会議」)である。この区域会議のメンバーは基本的には国家戦略区域担当大臣と関係地方公共団体の長に限定され(第7条第1項)、これに当該特区で具体的に事業を行うことになる事業者が加わる(第7条第2項)。もちろん利害関係を有する省庁の大臣を構成員として加えることはできるが、それは「国家戦略特別区域担当大臣及び関係地方公共団体の長」が「必要と認める」場合に限られる(第7条第3項)。内閣府と地元自治体が合意しなければ、各省庁は区域会議に出席することすらできないのである。区域会議が決めた事項は内閣総理大臣の認定によって法的拘束力を持つものとなるが、関係省庁はその際に内閣総理大臣(具体的には内閣府)から協議されることになる。その際も「この場合において、当該関係行政機関の長は、当該特定事業が法律に規定された規制に係るものにあっては第12条の2から第25条までの規定で、政令又は主務省令により規定された規制に係るものにあっては国家戦略特別区域基本方針に即して第26条の規定による政令若しくは内閣府令・主務省令で又は第27条の規定による政令若しくは内閣府令・主務省令で定めるところにより条例で、それぞれ定めるところに適合すると認められるときは、同意するものとする。」(第8条第9項)と規定されている。要するに、規制法令を所管する省庁であっても、国家戦略特区の場合においては、内閣府と地元自治体と実際に当該事業をする事業者が決めた基準に合致すれば合意を拒否できないということである。

 本年1月4日付け内閣府文科省共同告示は、今回の決定に従って今治市の特区で獣医師養成系大学・学部を新設する構想であって、平成30年度に開設する1校に限られるものについては「当該大学の設置に係る同項の許可の申請の審査に関しては、大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る許可の基準第一条第四号の規定は適用しない」と記載している[iii]。大学の新設や学部の新増設に関しては、昭和51年に私学振興助成法により、私立大学に対する公費助成を行う代わりにその教育・研究の質を確保する観点から学部の新増設は基本的に認めないという方針がとられてきた。しかし、2000年代における総合規制改革会議における議論を受け[iv]中央教育審議会において、大学の質の確保を量的規制に係らしめるのではなく、設置審査の基準を告示以上の法令で定めることにより一覧性を高め、明確化を図り、こうしたあらかじめ明示された基準を満たしている場合については原則同意するといういわゆる「準則化」の方針が決定した[v]。これに基づいて平成15年に、審査の一般的基準に関する(設置審の)内規(「審査基準要綱」等6本)及び抑制方針に関する内規(「審査の取扱方針」等4本)など計11本を廃止して、最低限の基準として必要なものに限って大学設置基準や告示などが規定された。獣医学部は、医学部や歯学部と並び、こうした数量抑制方針の撤廃時においてもその例外とされたことから、文科省告示として明記された。今回は、この学部新増設の申請すらできないという規定を、1校のみに限り外すとしたのである。

 従って、国家戦略特区法第8条第9項が規定する同意義務は、設置審への学部新設の申請という点について発生するものであり、設置審の審査内容を拘束するものではない。審議会というものは、その事務局たる各省庁の意のままに動かされており、官僚機構の隠れ蓑、箔付けのための機関だと批判されることが多い。しかし、多くの大学関係者が実感しているように、設置審の審査は厳格に行われている。いじめではないかと思わされるほどたくさんの資料を何度も提出することを求められる。これがいやがらせではなく、厳格かつ独立して審査が行われるものと信じたい。

 ちなみに、僕はどちらかというと文部科学省は好きではなかった。通産省時代には仕事上直接のお付き合いはないが、先輩たちが生涯学習振興法といった法案折衝で「創造性のかけらもない規制墨守官庁」と揶揄していたのを側聞していたし、大学に職を得てからは副学長クラスでも平気で廊下で待たせる体質に怒りに打ち震える大学幹部の姿も見てきたからだ。しかし、北大を離れていろいろな私大の非常勤講師を務め、設置認可の準則化後設立された学生定員割れに悩む大学の現実を見るにつけ、「ダメなものはダメとハッキリ言え!」と応援しなければならないと強く思う。設置審で現在審査に当たっている委員におかれては、獣医学者としてのプライドをかけて使命を果たされることを期待している。

 

 [i] 衆議院内閣委員会・文部科学委員会合同審査会(2017年7月10日)における民進党緒方林太郎議員に対する山本幸三担当大臣の答弁

[ii] 郷原信郎ブログ『郷原が斬る』「加計問題での”防衛線”「挙証責任」「議論終了」論の崩壊」2017年7月9日付

https://nobuogohara.com/

[iii] 「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る許可の基準」平成15年3月31日文部科学省告示第45

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h28/shouchou/160916_shiryou_s_2_3.pdf 

 

[iv] 総合規制改革会議「規制改革の推進に関する第2次答申」平成13年12月11日

[v] 中央教育審議会「大学の質の保障に係る新たなシステムの構築について」平成14年8月5日答申

ちゃんとわかりたい人のための加計問題-Part 4 (特別篇)

閣議決定である「石破4条件」に反する決定は違法か?

―閉会中審査で山本大臣が嘘をついたのは明白ではないか?―

 

1.タイトル変更

 「ちゃんとわかりたい人のための」と大見えきって書き始めた時には、僕自身この  問題のややこしさをちゃんと理解していなかったし、ここまで問題が拡大していくとも考えていなかった。「前川問題」というタイトルにしたのは、前川前次官に対して、①「政権が怖いし讀賣新聞にあそこまで書かれちゃってるのに筋を通してエライなあ」という意見と、②「『前次官』とはいえ、やってることは現在進行中の設置審での学部認可に影響するし、文書の真実性云々となると現職の高等教育局長と専門教育課を中心とする一部部局の職員の責任問題を直撃してしまうので、一発で政権を倒せるだけの材料がない以上、何してくれちゃってるんだろ?やるんだったら現職の時に体張って抵抗してくれよ。」という意見の両方が僕の周りにあって、どっちもあるなあと思いつつ、個人的には前川さんの筋の通し方もそれなりの正解だと考えるということを書こうと思っていたからだ。

 しかし、特区のことをあらためてきちんと調べてみると、いろいろ面白いことがわかってきた。僕は、特区については小泉政権時代の構造改革特区も含めて直接の担当をやったことがないけれど、一般的には法律とか制度の作り方はだいたい知ってはいるし、今話題の担当の面々は昔から知っている。テレビに出てくるコメンテーターの不正確な理解に基づくコメントが気になるから、それを補足するくらいのつもりだった。でも、調べてみると、文科省のいわゆる怪文書は、現在公開されている議事録をきちんとつなぎ合わせれば内容が本当であることを証明できるし、その後の展開も含めれば、行政学の官僚制研究とか政治過程論の意思決定研究の実証素材としてかつてないほど価値のあるものだと確信してきている。

だから、この連載のタイトルも「前川問題」を「加計問題」に変更する。ちなみに、前川問題についても、後日きちんと論じる予定である。

 

2.「石破4条件」を無視した決定の違法性

読者の方から以下のようなコメントを頂いた。

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北村直人氏の発言を引用して「総理が決断さえすればどんな規制改革もできてしまう」という記述があるが、それは間違い。国家戦略特区法には基本方針を閣議で定め、総理はそれに従う義務が明記されている。「石破4条件」 はその閣議決定された基本方針(日本再興戦略)の一つなので、4条件を無視しての特区指定は違法。

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 この指摘はこの問題のややこしさを象徴している。今回の問題は、特区の認定プロセスの議事録の多くが公開されており、事実関係を整理してした上で、この議論を整理するつもりであったので、この段階ではスルーするつもりしでいた。

 しかし、終盤国会において都議選をにらんだ与野党の駆け引きの中で、議論が過度に政治化し本質的な議論が見えなくなっていると感じる。ご指摘を受けたのは良い機会であるので、コメント欄でスルッと応対するのでなく、きちんと本体部分で議論しておくことにする。以下、現時点での国家戦略特区制度に関する僕の理解であり、事実誤認・間違い・勘違いはあり得る。この話について僕より詳しい人は、内閣府担当者含めてたくさんいるわけであるから、ご指摘いただければ幸いである。それが原稿段階のものをブログで公開する意味でもあるわけなのだから。

 

 この批判に対する僕の対応は、3つのレベルに分かれる。

① 「ご指摘の通り、適切でない」

 石破4条件は、アベノミクス全体の方向性をまとめている「日本再興戦略」に盛り込まれて閣議決定されたものなので、獣医学部の新設の可否はその4条件に合致するかどうかを吟味する必要がある。しかし、公開された議事録の中に4条件に関する吟味の経緯が書かれていない以上、特区指定が適切だったとは言えない。

 テレビの情報番組や新聞記事で扱っている議論は基本的にここまでである。この文章を最後まで読んでいただければわかるように、僕も基本的にはその通りだと考えているので、スーパーで買い物している時に話しかけてくるおばさまとか飲み屋で同席するおじさまに「そうだろう」と言われれば、「その通りですね」と返事をする。番組のコメンテーターを務めている場合でも残り時間じゃきちんとした説明はできないから、そう言う。

 しかしこれでは、そもそもの疑問である「違法かどうか?」に対しては答えていないことになる。

 

② 「国家戦略特別区域法上は、違法なことは何一つしていない」

 さて、もう少しプロっぽい議論である。今回ご指摘の内容は「国家戦略特区法には基本方針を閣議で定め、総理はそれに従う義務が明記されているから、閣議決定された文書の中に書いている4条件を無視しての特区指定は違法である」というものである。ここでの問題は「違法性」が認定できるかどうかである。違法性の有無が重要なのは、この問題を突き詰めていくとどんな疑獄事件に発展するのか、政策の当否だけなら大騒ぎする必要などないという意見があるからである。

 結論から言うと、国家戦略特区法上の瑕疵はなく、違法とは言えない。

 そもそも国家戦略特区法(以下「法」という。)が「基本方針を閣議で定め、総理はそれに従う義務を明記」しているという理解は、不正確である。法が「閣議で定め、総理はそれに従う義務を明記」しているのは「国家戦略特別区域基本方針」についてだけであり、そこには全体の手続き規定のようなものが盛り込まれているだけである。それぞれの特区における特定事業に関する意思決定は、特区ごとに設定される「区域会議」で行われる。「区域会議」も、それぞれ「区域方針」を定め、事業者を選定し、それに対する支援策を検討するのであるが、「国家戦略特別区域基本方針」とは異なり、「区域会議」が作成した原案を、総理大臣が認定すればそのまま法的効力が発生する。区域会議のメンバーは、内閣府と当該関係自治体の協議で決まるため、各省庁は出席して意見を述べることすら彼らの了解なしにはできない。(こうした制度の詳細は後日説明する。)

 確かに「石破4条件」は閣議決定された「日本再興戦略」に盛り込まれたものであるが、「日本再興戦略」は国家戦略特区制度も含めたアベノミクスの成長戦略の全体を俯瞰している文書であり、「法」には直接的な位置づけを持たない。従って、「法」の定める手続きに従って意思決定がなされていれば、「石破4条件」を満たしているかどうかという検討は必要的検討事項ではないことになる。この法律には経緯があるので、構造がややこしいのだが、現時点で新聞・テレビでコメントしている人にはきちんと理解しておられない方が少なくない。

 この点に関し批判を浴びているのが、民進党玉木雄一郎議員である。5月24日フジテレビ「ゆあたいむ」出演の際に、ゲストコメンテーターだった俳優の別所哲也氏から、今後文科省文書が真実だと確認され獣医学部新設に係る意思決定の経緯が明らかにされたとして「どこに違法性というものを感じているのか?」と問われ、「2015年の閣議決定違反が行われているかどうかです。違法性ではありません。閣議決定違反があったかどうかということです。」と答えざるを得なかった。

 もちろん、「日本再興戦略」が閣議決定文書である以上、国家戦略特区制度内での意思決定はそれを尊重する必要がある。厳密にいえば、「内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する。」と規定している内閣法第6条違反にあたる可能性がある。玉木議員自身も、6月14日BSフジ・プライムニュースに出演した時には、自民党下村博文議員や公明党斉藤鉄夫議員らとの議論の中で「内閣法第6条違反の疑い」と明言している。しかし、これではあまりにも弱い。現実の行政実務の世界では、厳密には閣議決定に合致しない意思決定などいくらでも見つけられる。更に、閣議決定の趣旨に反する決定のほとんども閣議決定されるため、当初の閣議決定文書を撤回することなく法的効果は上書きされると理解されている。もし今回の問題を内閣法第6条違反として裁判に訴えたとしても、政府は11月9日の国家戦略諮問会議決定を「閣議決定に準ずるもの」として閣議決定同等の効力を認定し、「日本再興戦略」の石破4条件を含む獣医学部新設に係る意思が区域会議での検討の結果、発展的に結実したものであって、法的瑕疵はないといった反論をするものと予想される。こういった政府の主張を裁判で否定する判決を得ることはほぼ不可能だ。何も間違ったことをしているわけではない。

 終盤国会から都議選に至る過程で、菅官房長官の記者会見での応答や安倍総理の発言が乱暴に見えるのは、こうした理解に基づいているからだ。

 

 ③ 「獣医学部新設認可に係る意思決定過程全体として見れば、十分に贈収賄の問題   を含めて違法性を構成する可能性を現時点では否定することができない。」

 しかし、ここで議論を止めてしまっては、自民党の応援団の議論にすぎない。今、国民の大多数が感じている「52年ぶりにたった1校だけがなぜ総理のお友達のところなのか?」という疑問に答えて、ある程度にせよ納得を得ることにはなっていないからだ。これでは真の自民党の応援団にすらなれない。

 小泉政権時代の構造改革特区制度が暗黙の前提としていた問題は、時代遅れの規制によって民間ビジネスが阻害されているというものであった。規制改革の世界では、「経済的規制」と「社会的規制」区別が議論されてきた。「経済的規制」は産業の健全な発展と消費者の利益を図ることを目的としているが、時代に合わなくなってきており原則廃止すべきであると考えられているのに対し、「社会的規制」は消費者や労働者の安全・健康の確保、環境の保全、災害の防止等を目的としており、必要最小限度という限定は付くとしても維持することが適当であるという区別である[i]。しかし、現実にはこの区別は曖昧である。特定事業者に超過利潤が生ずる状態をもたらす規制の維持という意味では事実上「経済的規制」とみなされるようなものであっても、一定の公的目的を兼ねており「社会的規制」でもあるというものは少なくない。そうした規制を改革してみて公的目的がどの程度害されるのか、あるいは社会の変化や技術の進歩により全く害されないのか、特定の区域に限って社会実験を行ってみようというのが特区制度の本来の趣旨である。

 しかし、今回の問題は単純な経済的規制の撤廃という問題ではない。本ブログにおいても、今後ワーキンググループのレベルでどのような検討が行われたかをきちんと検証していくが、これまでに書いたように、獣医学部の新設制限という措置が、養成される獣医師の質の維持という社会的規制なのか、それとも既存の獣医師養成系大学・学部に既得権をもたらしているだけの経済的規制なのかという議論は、少なくとも諮問会議と特区会議のレベルでは行われていない。文部科学省の当時の最高責任者であった前川氏は、文科省として石破4条件を加計学園の構想は満たしていないと主張していたにも関わらず、内閣府はろくな反論もしないままに押し切られ「行政が歪められた」と主張している。そうである以上、官邸及び内閣府側は出会い系バー通いなどという個人攻撃をするのではなく、4条件については文科省の主張を否定するに至った検討の経緯を堂々と示せばよい。それができずに個人攻撃を画策しているのでは、示せないからだと国民の不信感は増大するだけのことだ。

 安倍総理は6月24日の講演で、加計学園1校に限らず、今後どんどん新設を認める方向だと表明されておられるが、現時点では今年1月4日付の内閣府文科省共同告示により1校のみに限定されている。しかもこの1校は、全国から獣医師養成系大学構想を集めて比較検討した結果ではなく、今治市という特区に限定して認め、そこに設置する事業者を公募したわけであるから、今治市と二人三脚で長年にわたり構想を進めてきた加計学園をピックアップしたことに他ならない。しかも、加計学園の設立する獣医学部でどのような質の教育・研究が行われることになるかという審査は、今年の3月から設置審で行われているのである。

繰り返すが、国民の不信感の原因は加計学園に対するえこひいきがあったかどうかである。前川氏の指摘に対し、反論すべきなのは加計学園の学部新設を擁護する側だ。手続きに瑕疵がないと開き直っても不信感の払拭どころか、火に油を注ぐだけだ。

 

3.7月10日閉会中審査の議論で山本担当大臣の答弁は明らかに虚偽なのではないか?

 この後、国家戦略特区法の構造を詳細に分析し、その複雑な決定過程の中でどのような矛盾が生じているから記述していたが、読者からのコメントに対する決定的だと思われる答弁があったのでそれを先に指摘しておく。

 「石破4条件[ii]」は安倍内閣の方針であるから、それに基づき諮問会議の決定は引き写していれば、法律的に美しい形になる。山本幸三担当大臣は、繰り返し4条件を加計学園の構想が満たしていると考えているから手続きを進めていると述べている。そうであれば、諮問会議で日本再興戦略と同じ決定がなされるはずである。二つの文章を比較してみよう。

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「日本再興戦略改訂2015」 2015年6月30日

⑭ 獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討

 現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し、ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要があきらかになり、かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。

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諮問会議 2016年11月9日決定

〇 先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応する獣医学部の設置

・ 人獣共通感染症を始め、家畜・食料等を通じた感染症の発生が国際的に拡大する中、創薬プロセスにおける多様な実験動物を用いた先端ライフサイエンス研究の推進や、地域での感染症に係る水際対策など、獣医師が新たに取り組むべき分野における具体的需要に対応するため、現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を、直ちに行う。

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 後者の成立過程での文書が流出しており、「広域的に」「存在しない地域に限り」という文言が追加されたことで、京都府京都産業大学が断念せざるを得なくなったとされ、注目を集めているものである。ここでは、経緯に関する文書の真偽は問わない。それは本問題の真の姿を明らかにすることにとっては極めて重要なのであるが、ここではこの問題が違法性を認定される可能性があるほど歪められた決定かどうかということを議論している。

 諮問会議決定を見ると、広域的という条件が追加されたこととともに、①「既存の大学・学部では対応困難な場合には」という条件と②「近年の獣医師の需要動向も考慮しつつ」という2つの条件に関する文言が削除されたことにも注意しなければならない。これにより、新学部の研究・教育内容が既存の獣医学部に優越する水準を確保することを証明する必要も、厳密な意味での獣医師の需給問題に対する検討する必要もなくなった。4条件を満たしているかどうか検討したのではなく、公式に4条件を緩和した上で検討を始めると決定したのである。

 今週月曜に開催された衆議院内閣委員会・文部科学委員会合同審査会におい山本幸三担当大臣は、民進党緒方林太郎議員から「この石破4条件は現時点で満たされていると思うか」と問われたのに対し、「当然そういう風に思っているから、11月9日の制度改正で獣医学部新設を認めることにしたわけでございます。」と述べた。

 4条件それぞれについて検討したのであれば、諮問会議決定は4条件をそのまま引き継げばよい。しかも、4条件を満たしていると判断して今治市に決めたというなら、4条件を満たしているかどうかの検討は11月9日以前に行われていなければならない。しかし、今治市がその特区の中で獣医学部新設を行う事業者を公募したのは、11月9日の決定に基づいて獣医学部新設を禁止していた文科省告示を改正する内閣府文科省共同告示が施行された2017年1月4日と同日付である。言うまでもなく、それ以前は50年以上獣医学部新設の申請を認めないという状態である。この公募に1月10日に加計学園が応募する。従って、内閣府今治市に学部を新設しようとする構想が具体的にどのようなものなのかは、公募が締め切られた今年の1月12日以前には知りようがないのである。

 山本大臣が緒方議員の質問に対して上記発言に引き続き、4分36秒にわたって4条件についてどのような判断をおこなったのかを延々と紙を読み上げる場面が何度も報道で流れていたが、全く失笑を禁じ得ない。2016年11月9日の諮問会議終了後、山本大臣は記者会見で以下のように述べているからである 。これについては前に引用したが再度掲載しておく。

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問:獣医学部の設置についてお伺いいたします。

  今治市など複数の特区が提案を出していると思うのですけれども、どこを一番有力視してやっていかれるのでしょうか。

答:本件は、これから制度を作るのですけれども、限定された、獣医学部が基本的に広域的に存在しないというようなところを念頭に置くことになりますが、まず制度を変えて、それから具体的に申請等が出てくることになりますので、現時点ではどこがどうだという話は今のところはできません。

問:地域の選定のスケジュール感というのはどのようにお考えですか。

答:近々に制度自体は作るようにしますので、その後、区域からの申請を受けて、それからの話になると思います。早ければ年内にも申請という話になってくるのではないかと思います。

問:基本的には、今ある特区の中で選定していくというイメージで構いませんでしょうか。

答:特区の制度ですから、特区の中から申請を受けて検討します。

問:新たに特区を指定することを念頭においては。

答:今は、そこまでは考えておりません。

問:文科省の告示を変える必要があると思いますが、それは新たな特例の告示を出すというイメージなのか、それとも今ある告示を改正していくというイメージなのか具体的に検討されてますでしょうか。

答:今ある告示を改正することになるのかなと思いますが、正確には文部科学省に聞いてください。

・・・・・

 何のことはない、山本大臣は制度の内容を正確に理解し、これから検討すると言っているのである。この記者会見は11月9日の18時から5分間、官邸ロビーで行われたことになっているから、テレビ局は間違いなく動画を保持しているはずである。そもそも緒方議員が、なぜ山本大臣にご自身の記者会見との矛盾をその場で質問しなかったのか理解できないが、いまだにテレビ局が閉会中審査における大臣答弁とこの記者会見を比較して放映しないのかも理解できない。山本大臣は虚偽の答弁をしていることは明白ではないか。

 

 

[i] 八代尚宏「社会的規制改革の意義」 日本経済研究No.53 2006.1 本号は「社会的規制」に属すると考えられてきた改革に関する実証研究の特集号である。

https://www.jcer.or.jp/academic_journal/jer/detail202.html#8

なお、八代氏は長く規制改革会議のメンバーであったが、現在でもその後継組織である規制改革推進会議のメンバーであり、規制改革推進会議は国家戦略特区諮問会議と担当大臣レベルで統合されており事務局も含めて密接な関係を密接な関係を持っている。

[ii]石破氏自身は最近、これを「石破4条件」と呼ぶのは心外、安倍内閣の方針として閣議決定されたものであるから「安倍内閣4条件」と呼んでほしいとしている。ここでは今までの慣例でそのまま呼ばせていただく。

http://www.excite.co.jp/News/politics_g/20170706/Economic_75184.html

 

「とよまゆ」は準エリートか?

 自民党の元官房長官河村建夫衆議院議員が、豊田真由子氏の暴言・暴行報道に対し「あれはたまたま彼女が女性だから、あんな男の代議士なんかいっぱいいる。あんなもんじゃすまない」[i]と述べたことが批判されている。もちろんこの発言は、ご自身のFacebook上で即日撤回されている[ii]

 テレビでは、官邸から帰るところで記者に答えている場面が放送されている。河村氏は党の党紀委員会の副委員長でもあるので、今回の問題への対処に関し説明してきたのかと思ったが、Facebookのコメントを読むとそうではないようだ。しかし、テレビ画面では豊田氏への同情のニュアンスが伝わってくる。思わずホンネが口をついて出たのだろう。

 僕には、河村氏のおっしゃる意味がよくわかる。党選対委員長は、自民党候補全ての選定を取りまとめる責任者で、新人候補から見れば雲の上の人だ。個々人とは深い付き合いがあるわけではない。それでも選挙の大先輩として新人候補の苦労は推して知るべしであり、同情的になっているのだ。

 選挙は「我こそは!」と自ら手を挙げるものである。学者や評論家は「出たい人より出したい人を」と言うが、現実の選挙は「出したい人」がすんなり勝てるほど甘いものではない。国会議員は立法こそが本来の仕事であるが、法律など読んだこともなく、行政の仕組みについても高校生程度の知識もない人も、議員バッチをつけさえすれば国政を動かせると信じ、人生一発逆転を夢見て集まってくる。いきおい自己顕示欲の異常に強い人の比率が高くなる。だから、変人列伝には事欠かない。

 既に鬼籍に入られた大物代議士が、車が渋滞にはまっただけで、運転している秘書を「なんでこんな道を選んで走っているのか?」となじり、靴を脱ぎその靴で秘書の頭を後ろからガンガン殴るという逸話を聞いたことがある。自分の秘書を殴るという噂の議員は十指に余るくらい知っているし、某省の部長を自殺に追い込んだという逸話のある議員もいる。その議員の決め台詞は「お前の人生をめちゃめちゃにしてやる」というものだった。当時の通産省ではそのくらいの暴言は日常茶飯事であったので、個人的には気にもしなかったけれど。

 河村氏の世代の暴言・暴力議員は大抵、地方名望家の御曹司だ。学校を卒業して、社会人経験はせいぜいファミリー企業の部長か役員を数年やり、親族か地元の国会議員の地盤を引き継いで若くして国政に出るというコース。その間に秘書経験があればまだよいが、皆無という人もめずらしくない。田中真紀子氏もこのカテゴリーに入る。この手の人は、そもそもが普通の人ではない。「若、ご乱心」が漏れないのは、先代の番頭だった古参秘書ががっちりガードしているからで、たいていは歳を重ねて人格も丸くなってくる。

 小選挙区制の今、こうした人はほぼ絶滅している。特に豊田氏のように公募で地縁も血縁もない場所で選挙に出る人は、それなりに苦労する。それでも「魔の2回生」と呼ばれるように、小選挙区では個人の資質ではなく党への評価が投票行動に決定的な影響を与えるから、個人の資質で選別が進むのは、個人がそれなりに知られるようになってからになる。小泉チルドレン小沢チルドレンもそうして選別が進んでいる。安倍チルドレンも同じことだ。

 

 ワイドショーでは、多くのコメンテーターが、桜蔭高校、東大法学部、厚生省キャリア、ハーバード大学院というキーワードに注目して、「自分が頭良すぎて、周りの人がバカに見えちゃうんでしょうね」とか「順風満帆のエリート人生で人間的に何か欠如してしまっているんでしょうね」とまとめている。

 しかし、これはちょっと待ってほしい。どこのグループにも、変わった人はいるものだ。「お勉強できすぎると人格悪くなるのね」という結論は短絡的すぎる。「勉強なんてできても社会では役立たないぞ」、「勉強できるのと、頭がいいのは違うぞ」、「不良は本当はいいやつで、ガリ勉は嫌味で人間味のないクズ」そうした言葉が、あまりにも安易に「勉強できる子」に投げかけられる。学園ドラマじゃ、勉強できる子は性根が腐った嫌なやつで、ヤンキーや落ちこぼれは本当は心根の優しい少年・少女と相場は決まっている。

 これって本当だろうか?ヤンキーの中にも、仁義に篤い立派なやつもいれば、とことん性根の腐ったやつもいる。逆に勉強できる子の中にも、いいやつもいれば困ったやつもいる。その比率は多少違うかも知れないけれど、そこの社会にもいいやつもひどいやつもいるだけのことだ。「ヤンキー先生」だって、今じゃ正論なんかこれっぽっちもはかない中間管理職の悲哀そのものじゃないか。この辺りは、ちょっと前に流行ってた前川ヤスタカ氏の『勉強できる子 卑屈化社会』(宝島社 2016)[iii]に詳しい説明がある。

 22日の読売テレビ「ミヤネ屋」に出演した弁護士の住田裕子氏が、「超じゃない、準エリートくらい」と発言している[iv]。「本当にそこ(厚生省)に入りたかったのか。本当に福祉をやりたかったのか私は疑問です」と述べたうえで、経歴の画面を見ながら「その道のりを見ても、次官コースの超エリートではない。(なので)どっかで物足りないものがあったので、政界に転身したのではと、同じ東大だから思うんですけど」とし、「順風満帆に見えつつ、内心ではたまりにたまったものがあって、選挙も必死なのでドブ板やって、だからちょっとしたミスでもああやって八つ当たりしてるんだなって」というのが住田氏の感想だ。

 「次官コースでない」と判断するのは合併官庁のことでもあり一応疑問が残るが、全体としてはおおむね当たっていると思う。厚生省には、成績上位者が結構集まる。僕の周りでも、極めて優秀で厚生行政がやりたくて厚生省に入った先輩もいるし、公務員試験の成績が3番くらいで厚生省第一志望の同期もいた(そいつは結局大蔵省に行ったけれど)。厚生省の人は、文部省の人と似ていて、よく言えば誠実、悪く言えば鈍くさいイメージの人が多い[v]。これは組織の文化のようなものであって、良し悪しでも優劣でもない。制度の安定運用を担う組織と、経産省のように多動性が命の組織の違いである。でも、厚生省に多くいる人は性格が優しいので、通産省経産省)に入ってしまうとたいてい「いじめられっ子」になってしまう。通産省は、いじめっ子文化だからだ。だから、豊田氏も通産省に入っていれば、そんなに歪まずにすんだのかもしれない。

 いずれにせよ、今回の事件をステレオタイプ化して理解してはいけない。豊田氏の問題は彼女自身の問題であり、彼女自身が背負うべきものだ。

 

[i] http://www.asahi.com/articles/ASK6Q619TK6QUTIL04B.html

 

[ii] https://www.facebook.com/takeo.kawmaura

 

[iii] https://www.amazon.co.jp/%E5%8B%89%E5%BC%B7%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E5%AD%90-%E5%8D%91%E5%B1%88%E5%8C%96%E7%A4%BE%E4%BC%9A-%E5%89%8D%E5%B7%9D-%E3%83%A4%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%AB/dp/4800259436/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1498418288&sr=1-1&keywords=%E5%8B%89%E5%BC%B7%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E5%AD%90%E5%8D%91%E5%B1%88%E5%8C%96%E7%A4%BE%E4%BC%9A

 

[iv] https://www.daily.co.jp/gossip/2017/06/22/0010304713.shtml

 

[v] ここで「厚生省」「文部省」というのは、合併することになる「労働省」や「科学技術庁」とは明らかに文化の差があったからだ。

「とよまゆ」伝説

 今日発売の週刊新潮が、豊田真由子衆議院議員の秘書の告発を書いている。僕の住んでいる北海道では、最近やっと金曜日発売になったが、それまでは土曜日発売。しかも、悪天候で船やJRのダイヤに乱れがあれば日曜どころか翌週発売になることもしばしば。いまだに離島扱いかと悲しくなる。従って、現時点ではこの記事の内容についてはネットで見る以上の情報は知らない。しかし、この音声を聞けば誰でもこの人物の異常さが一瞬で理解できるだろう。今回告発した秘書の方には心よりお見舞い申し上げる。

https://www.dailyshincho.jp/article/2017/06211700/?all=1

 この人物は、昔から超の字がつく有名人だった。ボストン時代、もう博士課程も中盤に入り、comprehensive examとかfield examとか言われている試験の準備をしていたころ、同じFletcher Schoolの後輩から「宮本さんって豊田さんとどういう知り合いなんですか?」と聞かれたことがある。その後輩は、ある官庁からの留学生で博士課程進学して学者に転身することを希望していたので相談に乗っていた。当時の僕には、豊田真由子なんて名前すら聞いたことのない人物だった。聞けば、HarvardでもSchool of Public Healthに留学している厚生省の人だという。その彼女が僕のことを罵詈雑言言っているとのこと。正直驚いた。こちらは芸能人どころか有名人ですらない。見ず知らずの人に言われる筋合いなどない。ちょうど彼女たちの学年が卒業する間際の時期でHarvardで大きなパーティーがあり、その席に同席した別の後輩に豊田さんを紹介してもらった。

 なぜ、僕のことを知っているのか?僕がいろいろ彼女のことを中傷しているということだが、自分には全く身に覚えがない。そもそも見ず知らずの人の悪口など言いようもないし、聞くところによるとどう見ても僕の話ではない(僕はHarvardでもKennedy Schoolの人と理解されていた)。文句があるなら直接言えばよいし、僕の名前を使って誰かの悪口を言っているならその人との関係も悪くするだろうと質問した。

 豊田さんは、その2年近く前、ボストンに留学してきたころに一度、どっかのパーティーで僕にあったことがあるのだという。その同じパーティーで、僕と同じ通産省からHarvard Law Schoolに留学していたH君にそっけなくされたのがカチンと来たらしい。その後のH君に対する恨みつらみは、聞いていて情けなくなるほどくだらないのだが、彼の言い方にもとげがあったかのかもしれない。僕は、「H君はいいやつだよ。そういう人ではない。霞が関の住人として今後もいろいろお付き合いもあるだろうから、ちゃんと紹介してあげる。誤解を解いておくといいよ。」といったら素直に納得してくれた。

 それにしてもH君でなくて、なんで僕なのか?それを聞くと、彼女は「だって、その日の日記に宮本さんって書いちゃったからし、お母さんとの電話でもそういっちゃったから」と言うなり、みんなの前でめそめそ泣きだしたのである。要するに、宮本君でなくてH君の話だということは本人も2年前から理解していたということだ。それなのに2年間、ことあるごとにH君の話を僕のこととして吹聴していた。そもそもH君に言われたことというのは豊田さんの説明を聞いても、なぜ罵詈雑言につながるのか理解不能だったから、H君にしてもいい迷惑。それにH君はLaw SchoolでKennedy Schoolでもない。めちゃくちゃである。

 この豊田さん、東大法学部出身にしては珍しくSchool of Public Health。なぜ?と聞いたら、「厚生省で障害者福祉の仕事していた。年金、保険、医療・薬務と政策別に局があって、子供には児童家庭局、老人にも老人保健福祉局があるのに、障害者に対しては大臣官房に障害保健福祉部があるだけ。老人は選挙に行くから重視するけど、障害者は選挙にも行けなくて政治の世界でも冷遇されている。だから、厚生省に働く自分が頑張らなきゃと思った」とのこと。ふ~ん、何と志の高いことかと感銘を受けた。

 ところが、その話をKennedy Schoolの後輩君にしたところ、「だまされちゃいけませんって」と全否定。彼女はHarvardに留学したとたん、School of Public Healthの寮が狭い、汚いと大学当局に強烈にクレームねじ込んで大騒ぎ。確かに学校はHarvardでもCambridge側でなく、病院群が集中するBostonの西側のはずれ、そこを過ぎると極端に治安の悪くなるDowntownにある。アメリカによくある公園みたいなキャンパスではないのだが、寮は東京じゃ普通のマンション。もちろんオートロックの個室、バストイレ完備。その建物には友人を訪ねて何度か行ったことがあるが、格安で汚くもない。でも、豊田さんにはご満足いただけなかったようで、次の学期から、Kennedy Schoolが持つ寮の障害者特別室に引っ越したのだそうだ。「障害者福祉政策を志す人が、障害者特別室に入るなんて気まずいんじゃないの?」と聞くと、「そういうの気にしないのがあの人なんですよ。Public Healthの学生だけじゃなくて、Kennedy Schoolの学生もたくさん呼んで、バリア・フリーで広くて便利ってのを自慢してましたよ。」とのこと。

 ネットで拾うだけでも、「とよまゆ」伝説はいくつも見つかる。お付き合いの少ない僕ですら、ボストン時代の話に限っても、ここには書けない話をいくつか知ってる。自民党埼玉県連は、公募の際にちょっと調べりゃこんな話はいくらでも見つかったはずだ。2012年初当選組にはゲスいやつが多すぎる。有権者をなめていると痛い目に合う。

 今日は不愉快な話を読んじまった。僕は、日記でなくて、ブログに書いておこう。電話は誰にもしないから。

ちゃんとわかりたい人のための前川問題 -加計問題にみる政官関係― part 3

3.獣医学部の新設の認定過程

(1)「国家戦略特区」という道具の役割:文科省設置審の権限は依然として存在

 問題は、加計学園の系列大学による獣医学部の新設が適切であるかどうかである。合理的理由がないのに総理のお友達だけに例外を認めるのであれば政治的に不適切な行為であるし、お友達から献金等の支援が行われている場合には刑事的問題を構成する可能性が出てくる。今回、総理がトップダウンで新設学部の設置を許可したような報道があるが、全体を大づかみにした印象論であって、制度的枠組みついて正確に理解しておくことが、今回の問題の当・不当、合法・違法を検討する前提となる。大学の学部新設の可否は、あくまで文科省の権限であり、具体的には文科大臣の諮問機関である大学設置・学校法人審議会(「設置審」)が、審査する。獣医学部の場合、設置審の中でも大学設置分科会・獣医学専門委員会が審査を担当することになる。

 設置審の議論の前提として認定基準がある。その多くが文科省告示として定められているが、ここで問題となるのは「大学、大学院、短期大学、高等専門学校等の設置の際の入学定員の取扱い等に係る基準」(平成15年3月31日文部科学省告示第45号)第1条の四に「歯科医師、獣医師及び船舶職員の養成に係る大学等の設置若しくは収容定員増又は医師の養成に係る大学等の設置でないこと」と規定されていることである。これが歯学部や獣医学部の新設を阻んでいる法的根拠となっているのだ。今回、国家戦略特区という道具でやろうとしているのは、この告示の規定を地域限定で解除することなのである。

 もちろん、国家戦略特区として今治市限定でこの規定を解除しても、実際に新設しようとする学部が適切なものかどうかは、設置審が審査する。加計学園は3月に申請し、8月許可を目指しているとされる。文科省は基本的には官邸批判などせずに、岡山理科大学獣医学部新設提案がクオリティを満たしていないと判断すれば淡々と不許可にすればよいだけのことである[i]

 

(2)「石破4条件」

 次に問題は、設置審の審議基準告示の規制を緩和し、「全国でただ一つ愛媛県今治市での獣医学部新設」を認めるという措置が適切であったかということになる。

 国家戦略特区として獣医学部新設を盛り込んだ決定文書である「『日本再興戦略』改訂2015」(平成27年6月30日閣議決定[ii]には、以下の記載がある。

 

⑭ 獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討

  • 現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し、ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要があきらかになり、かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。(121ページ)

 

 役人としては、この文章は以下の4つの部分に分割されていると読む。

 ① 「現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し」

 ② 「ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要があきらかになり」

 ③ 「既存の大学・学部では対応が困難な場合」

 ④ 「近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討」

 即ち、4つの条件が付されていると読むのだ。本文書の閣議決定時点において担当大臣が石破茂氏であったことから、石破4条件」と呼ばれている。ここには後に問題となる四国限定という条件が付されていない。

  ちなみに、最後の「本年度内に検討を行う」とあり、これを第5の検討期限に関する条件と解釈することもできる。しかし、これだけでは「本年度内に新設を決定する」と読むのか「本年度内に新設問題が決着しなければ来年度以降は検討しない(要するに「逃げ切り」が許される)」と読むのかはっきりしない。この部分は京都府京都産業大学獣医学部新設要求を断念させる要因の一つとなるが、この時点では獣医学部新設要望を持っていたのは加計学園のみであったから、それ以外の新設要望を否定するための日程(具体的には「平成30年4月開学ありきのスケジュールに間に合わないものは認定しない」とすること)として設定されていたとまでは結論できない[iii]

 この4条件の具体的解釈について、石破氏自身がブログで以下のように解説している。

・・・・・

つまり政府としては、

 ① 感染症対策や生物化学兵器に対する対応などの「新たなニーズ」が明らかである    こと。(上記②に対応)

 ② それが現在存在する国公立・私立の獣医学部や獣医学科では対応が困難であること。(上記③に対応)

 ③ 特区として開設を希望し、提案する主体が「このようにして従来の獣医学科とは異なる教育を行う」というカリキュラム内容や、それを行うに相応しい教授陣などの陣容を具体的に示すこと。(上記①に対応)

 ④ 現在不足が深刻化している牛や馬、豚などの「産業用動物」の治療に従事する獣医の供給の改善に資すること。(上記④に対応)

  以上4点について判断すればよいわけです[iv]

・・・・・

 さすがに当事者であった石破氏は詳しく、続けて、

・・・・・

 ①は主に厚生労働省が、②と③は文部科学省が、④は農林水産省がそれぞれの専門的知見から当事者の主張を聞いて意見を述べ、これらをもとに国家戦略特区認定に権限を有する内閣府が、その責任において判断したことなのでしょう。これらについて適正に行われたという説明を、具体的な根拠の提示と共に果たせばよいだけのことです。[v]

・・・・・

と解説している。

 

(3)「石破4条件」の付与された意味

 安倍政権の看板政策であるアベノミクスの「第三の矢」そのものである『日本再興戦略』の2015年改訂版に盛り込まれたのであるから、「獣医師養成系大学・学部の新設」に向けて積極的な取り組みが行われることが決定したと普通の人は思うだろう。実際、今治市内閣府に初めて正式に提案を説明したのが6月5日[vi]、2015年改訂版が閣議決定されたのが6月30日であるから、内閣府に対する正式説明の前に事務方で事前協議を行っており2015年改訂に本件を滑り込みで挿入するために6月初旬に説明の日程を組んだものと思われる[vii]。この後、今治市の提案は[viii]広島県とセットされ「広島県今治市」として国家戦略特別区として指定されることが、同年12月15日の国家戦略特別区域諮問会議で決定され、翌2016年1月29日付政令により正式に指定される。

 この諮問会議後、石破大臣(当時)は記者会見で「国家再興計画では4つの項目が付されていたが、今回、今治市の獣医師系の国際教育拠点整備構想が区域指定されたことで、緩和されたのか」と問われたのに対し、以下のように明確に否定している。

 ・・・・・

 これはそういうものではございません。獣医学部の新設は、今治市がご提案なさいました内容の一つではございますが、今回の指定によって新設が決定されたものではございません。ご指摘のように、本年の6月30日に日本再興―再び興すと書くほうですが―再興戦略を閣議決定をしておるわけでございます。「日本再興戦略改訂2015」というものでございますが、獣医学部の新設につきましては、近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行うというふうに書かれておるところでございます。その検討とは何かと言えば、現在の提案主体による、この場合には今治市でございましょうか。現在の提案主体による既存の獣医師養成ではない構想が具体化するということが一つ。どういうように獣医師さんを養成していきますか、既存のものとは違いますよという構想が具体化するということが一つ。

 2番目はライフサイエンスなどの獣医師の皆様方が新たに対応すべき分野における具体的な需要というものが明らかになること。かつ、既存の大学・学部では、対応が困難な場合、近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行うということになっておるわけでございます。これは閣議決定でございますので、当然今回の指定ということの前に、閣議決定というものがあるものでございます。

 ですから、従来の獣医師さんの養成ではない構想というものは、具体的にどういうことなんだと。そして、そういうものに対して、具体的に需要がありますよということ。そして今、獣医学部、あるいは獣医学科というものが全国にあるわけでございますが、それでは対応が困難でありますということ。また、獣医師さんの需要というのが、これが医師の場合には、やれ足りないとか、いやそうではない、偏在しておるのだとか、いろいろな議論があるわけでございますが、獣医師の皆様方の場合には、一体どれぐらいの需要があり、どれだけの供給がなされているのかということが、きちんと解析されたかと言えば、そうではないわけであります。獣医師のライセンスをお持ちであっても、牛でありますとか、馬でありますとか、そういう産業用動物の対応に従事をされる方々と、いわゆるペットの需要に対応される方々と、二通りあるわけでございますが、そういうようなあえて言えば、需要の動向というもの、余り需給という言葉がふさわしいとは思いませんので、需要の動向っていうのは、いま一つ不分明なところがございます。そういう解析もきちんと行うということでありまして、今検討を行っておるところでございます。

 それは全国的見地からなされるものでありまして、その日本再興戦略改訂の2015というものが大前提であることは、全く変わっておりません[ix]

 ・・・・・

 石破氏の言葉を長く引用したのは、この条件は極めて高いハードルと理解されているというニュアンスがにじみ出ると考えるからだ。獣医師資格が国家資格として規定されているため、その教育内容はそれなりに定まってくる。従って「既存の大学・学部では対応が困難な事由」を想定することは極めて難しい。人獣共通感染症のような新たに獣医師が対応しなくてはならない事由が出てきても、既存の獣医大学・学部は彼らの研究内容はもちろん、当然その教育内容も変更し、必要によっては資格試験の内容も含めて教育課程を見直すことは行われる。近年の獣医学の世界では人獣共通感染症こそが最大のテーマであって、北海道大学でも喜田宏教授のような有名人を看板に立てて大型研究費取得に邁進している。既存の獣医学部では、こうした新たな喫緊の課題に対応するため、医学部や農学部はもちろん、遺伝子解析の情報解析技術のような分野で工学部との連携を深めており、むしろ既存の獣医系学部の統合・再編を図り、研究組織の統合を図るべきではないかという意見もある[x]。そうした中で、学部を新設し、新たに教員を公募し、既存の機関の手に負えない分野を担うと説明することは極めて高いハードルとなろう。

 実際、この4条件は獣医師養成系大学・学部の新設を阻止にする意図で書き込まれたと推察できる証拠が、日本獣医師会関連の会合議事録にある。日本再興戦略の閣議決定の10日後、2015年7月10日に行われた「全国獣医師会事務・事業推進会議」の議事録に、北村直人・日本獣医師政治連盟委員長からの活動報告として以下のような発言が行われたという記載がある。興味深いので長文になるが引用しておこう。

 ・・・・・

 それからもう一点、日本獣医師政治連盟として、今まで新しい獣医師養成大学・学部の設置については反対をしてまいりましたが、本件について最終的に先日閣議決定がなされました。骨太方針あるいは成長戦略という言葉をニュース等々で皆様も目にされたと思います。その中に、本当に小さく獣医師養成大学・学部の新設に関する検討という項目が出てまいります。その部分を読ませていただきますと「現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し、ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要があきらかになり、かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う」という文言が出てまいります。3つの条件が付いています。つまり、新しい大学を作りたいところが既存の獣医師養成機関でないという構想が具体化すること、次に、獣医師が新たに対応すべき分野の需要の養成があるということが2つ目、かつ、16獣医学系大学で対応できない場合ということが3つ目の条件となりますが、その獣医師養成の大学・学部の新設の可能性はこの3つの条件によりほとんどゼロです。16獣医師系大学で対応できない獣医師はいない訳ですから、現在の獣医師学系大学でこれらができるということは当然です。石破担当大臣と相談した結果、最終的に「既存の大学・学部で対応が困難な場合」という文言を入れていただきました。ただし、今後もこの問題は尾を引いてくると思います。つまり、日本の最高権力者である内閣総理大臣が作れと言えばできてしまう仕組みになっておりますので、こういう文言を無視して作ることは可能です。内閣がもしこれを行うのであれば私たちは現在の内閣に対して敵に回らざるを得ないのですが、獣医師会としては抵抗勢力にはなりたくない。抵抗勢力としてマスメディア等々で取り上げられ、獣医師会は抵抗勢力である、訳の分からないことを言っている団体だということになりますと、世論の風当たりは強いものとなります。日本獣医師政治連盟といたしましては、先ほど申し上げました3つの条件は、既存の16獣医学系大学が今回の答申に対するコメントをするべきであるということがわれわれの見解です。そして、16大学から日本獣医師会、日本獣医師政治連盟による具体的な検討・対応を行うことが本筋であると考えております。

 最終的には、今回の獣医師養成大学・学部の新設については、どこを読んでもこれを覆すような状況は一つも見当たらない。つまり、新しい獣医学系大学・学部の設置はできないということが今回の骨太方針、成長戦略の文言に書いてあると考えております。これをクリアする新たな獣医師の資格を作るのであれば別だと思われますが、現状では設置できないということが日本獣医師政治連盟としての見解です。繰り返しになりますが、日本の最高責任者がもし失言するようなことがあれば、できないことはないということはわれわれも腹にすえておかなければならないということだけ、ご報告させていただきます[xi]

・・・・・ 

 要するに石破大臣に要請して「既存の大学・学部では対応が困難な場合」という文言を書き込んだことにより、新設可能性はほとんどゼロになったと報告しているのである。ちなみに北村直人氏は、元衆議院議員であり、宏池会に所属していたため石破氏とは派閥は異なるが、初当選が同期というで個人的に親しい関係とされる。国家戦略特区という制度では、決定は一元的に内閣総理大臣の認定によるものとされており、諮問会議等の意見を聴取する手続きは要するものの、総理が決断しさえすればどのような規制改革もできてしまう。経験豊富な北村氏は、このことを熟知しており懸念を示しておくことを忘れていない。この認識は、都道府県獣医師会会長を集めて同年9月に開催された全国獣医師会の理事会においても、北村直人氏から繰り返されている。

・・・・・ 

 なお、昨日(筆者注:2015年9月9日)、藏内会長とともに石破茂地方創生大臣と2時間にわたり意見交換をする機会を得た。その際、大臣から今回の成長戦略における大学、学部の新設の条件については、大変苦慮したが、練りに練って誰がどのような形でも現実的には参入は困難という文言にした旨お聞きした。このように石破大臣へも官邸からの相当な圧力があったものと考える。しかし、特区での新設が認められる可能性もあり、構成獣医師にも理解を深めていただくよう、私が各地区の獣医師大会等に伺い、その旨説明をさせていただいている。

 秋には内閣改造も行われると聞いており、新たな動きが想定されるが、政治連盟では、藏内会長と連携をとりながら対応してくいので、各位のさらにご指導をお願いしたい[xii]

 ・・・・・

 

(4)「4条件」の下での獣医学部新設要望の取扱い

 「特区」制度は、2002年の小泉政権時の「構造改革特別区域法」においては、地方自治体が地域活動の阻害要因となる規制の特例措置を提案し関係省庁と協議するが、国は財政負担を伴う措置等の支援を行わないこととなっていた。地方自治体の創意工夫による地域間競争を促し、国が行うべき構造改革のアイデアを吸い上げようという趣旨が貫かれたからである。しかし、地域主権改革を掲げた菅内閣の下で2011年に成立した「総合特別区域法」においては、「国際戦略総合特区」と「地域活性化総合特区」が規定され、地域経済の活性化を重視する観点から、規制に関する特例措置に加えて、税制措置、財政措置、金融措置等の支援策を投入することとした。そのため、特区ごとに支援策を検討する「国と地方の協議会」が設置されている。

 安倍内閣における国家戦略特別区域法(2013年)においても、こうした仕組みは継承され、規制改革のメニューそのものは国家戦略特区諮問会議の議長たる内閣総理大臣の裁定により決定されるが、国家戦略特区に指定された区域では国家戦略特区担当大臣、関係自治体の長及び総理が選定した民間事業者によって「国家戦略特区会議」が設けられ、協議の上三者の合意により国家戦略特区計画を作成することになる。

 加計学園獣医学部新設要望も、今治市の他の特区申請[xiii]と、更に広島県の申請とまとめられ「広島県及び愛媛県今治市の区域」として2016年1月29日付で政令指定された[xiv]。これを受けて「広島県今治市 国家戦略特別区域会議」が立ち上がる。石破氏も言及するように県と市で一つの特区というのは「極めて珍しいパターン」[xv]である。しかし、3月30日に開催された第1回会議において獣医学部新設は正式な議題にならず、この時点では区域計画の中にも盛り込まれなかった[xvi][xvii]。この会議では、区域会議の下に「今治市分科会」を設置することが決定され、その議題の一つとして提示されただけであった。なお、この会議に民間事業者側として出席したのは、元文部省官房長で元愛媛県知事であった加戸守行氏であり、この時の肩書は「今治商工会議所 特別顧問」である[xviii]。事実上の加計学園の代理人である。

 今治市の公式の説明によれば、今治市内閣府に対し、国家戦略特区への提案を最初に正式に説明したのは前述したように2015年6月5日であるが、この際には愛媛県庁の職員がパワーポイントスライド2枚、質疑を含めて19分という説明しかしていない[xix]内閣府との公式の議事録に残る国家戦略特区関係の正式な会議としては、そこから2016年9月16日の分科会まで1年3か月時期があくのである。この間の経緯については、現時点で明らかになっていないが、後述する新潟市新潟総合学園の開志大学獣医学部新設要求と同様の極めてネガティブな調整が今治市内閣府及び文科省との間で行われていたものと推察される。

 これが2016年8月3日、第2次安倍再改造内閣の発足時に石破茂氏が担当大臣を外れると一転して動き出す。まず、9月9日の第23回国家戦略特別区域諮問会議において、今後の進め方関する有識者議員からの提言に、「残された岩盤規制改革の断行(「重要6分野」の推進)について」の中で、6分野の一つである「⑥ 地方創生に寄与する「一次産業」や「観光」分野での改革の推進の例として「獣医学部の新設」が例示される[xx]。同月21日に「今治市分科会」が開催され、獣医師養成系大学・学部の新設が提案される。この時の資料はたった2枚である上、冒頭課題として挙げられた人獣共通感染症の例として挙げられたMERSをMARSと誤記するなどずさんなものであった。会議全体の時間は58分、文科省専門教育課長から「石破4条件の確認が重要」、農水省畜水産安全管理課調査官から「引き続き獣医師の需給等の情報提供を文科省に行う」とのコメントがあったのみで、実質的な質疑は行われなかった[xxi]。この分科会の概要が、同月30日の「広島県今治市(第2回)国家戦略特別区域会議」(東京圏、福岡市・北九州市と合同で開催)[xxii]において報告された。

 これを受けて10月4日に第24回国家戦略特別区域諮問会議が開催される。この会議で改訂が認定された区域計画には、引き続き獣医学部新設は盛り込まれていない[xxiii]。当日配布された議事次第、説明資料、配布資料及び参考資料の中に「獣医学部新設」には一言も言及がない。

 しかし、議事の中で司会を務める山本幸三地方創生担当相から、質疑項目の説明に引き続き、「このほか、先月21日に、今治市の特区の分科会を開催し、『獣医師養成系大学・学部の新設』などについても議論いたしました。」と言及される。その後、有識者議員を務める八田達夫大阪大学社会経済研究所招聘教授から今後の進め方に関する有識者議員連名の提言について説明(その中にも「獣医学部新設」には言及がない。)があり、それに付け加える形で以下のような発言が行われる。

 ・・・・・

 最後に、先ほど今治市の分科会での話が出ましたので、ちょっとそれについて、この民間人ペーパーからは離れますが、私の意見を申し述べさせていただきたいと思います。今治市は、獣医系の学部の新設を要望しています。「動物のみを対象とするのではなくてヒトをゴールにした創薬」の先端研究が日本では非常に弱い、という状況下でこの新設学部は、この研究を日本でも本格的に行うということを目指しています。さらに、獣医系人材の四国における育成も必要です。

 したがって、獣医系学部の新設のために必要な関係告示の改正を直ちに行うべきではないかと考えております[xxiv]

・・・・・ 

 この発言を受けて、同じく有識者議員を務める竹中平蔵東洋大学教授が続ける。

・・・・・ 

 アーリーサクセスという言葉があります。早い時期にちゃんとした成功事例をつくる。今回、内閣を改造されて2か月、私はこの内閣は既に多くのアーリーサクセスを作っていると思います。とりわけ、山本大臣のもとで、特区について、このアーリーサクセスは私は海外からも評価されていると思います。例えば、家事支援の外国人労働。今日出ました区域会議の共同事務局、今日は鈴木先生(筆者注:鈴木亘・学習院大学経済学部教授、東京都顧問)がお見えです。それと、民泊の上限を7日から大幅に縮小したこと。重要な点は、このアーリーサクセスを継続していかに加速するかということが私たちの重要な役割なのだと思うのです。

 その点で、今日提案がありました海外からの農業人材の確保でありますとか、小規模保育の全年齢化は、極めて重要であると思います。それに加えて、獣医学部、これはいろいろな御意見があることは承知しておりますけれども、私はやはりこれをこのアーリーサクセスの中にどうしても入れていくことが必要なのではないかと思います。

 御承知のように、来年、38年ぶりに新しい学部(筆者注:東北薬科大学の医学部新設。2015年8月に大学設置審議会で認可。東日本大震災からの復興支援策として新設が認めれらたものであり、特区を利用してではない。)ができます。38年ぶりです。でも、獣医学部はそれ以上にわたってつくられていません。言うまでもありませんが、鳥インフルエンザとか、SARSとか、今、人間の病気といわゆる動物の病気というものは区別がつかなくなっているわけで、その最先端を行くためにも、これはどうしても必要なのではないかと思います。(後略)[xxv]

 ・・・・・

 諮問会議は安倍総理が議長を務めるもので、この回の開催時間は全体で33分と短い。獣医学部新設に関しては有識者議員の言いっぱなしであった。

 しかし、翌11月9日の第25回諮問会議においては、山本幸三地方創生担当相から「前回の会議で、重要課題につきましては、法改正を要しないものは直ちに実現に向けた措置を行うよう総理から御指示をいただきましたので、今般、関係省庁との合意が得られたものを、早速、本諮問会議の案としてとりまとめたものであります。[xxvi]」として、「国家戦略特区における追加の規制改革事項について(案)」として、項目追加が提案される。具体的には、以下の項目である。

 

 〇 先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応   する獣医学部の設置

  • 人獣共通感染症を始め、家畜・食料等を通じた感染症の発生が国際的に拡大する中、創薬プロセスにおける多様な動物実験を用いた先端ライフサイエンス研究の推進や、地域での感染症に係る水際対策など、獣医師が新たに取り組むべき分野における具体的需要に対応するため、現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を、直ちに行う。

 

 臨時議員として参加していた松野博一文部科学大臣からは「文部科学省におきましては、設置認可申請にかかわる基準に基づき、適切に審査を行ってまいる考えであります。」、山本有ニ農林水産大臣からは「産業動物獣医師は、家畜の診療や飼養衛生管理などで中心的役割を果たすとともに、口蹄疫鳥インフルエンザといった家畜伝染病に対する防疫対策を担っており、その確保や大変重要でございます。近年、家畜やペットの数は減少しておりますけれども、産業動物獣医師の確保が困難な地域がございます。農林水産省といたしましては、こうした地域的課題の解決につながる仕組みとなることを大いに期待しておるところでございます。」とだけ発言があった[xxvii]

 これに対して、麻生太郎財務大臣から以下の通り懸念が示された。

 ・・・・・

 松野大臣に1つだけお願いがある。法科大学院を鳴り物入りでつくったが、結果的に法科大学院を出ても弁護士になれない場合もあるのが実態ではないか。だから、いろいろと評価は分かれるところ。似たような話が、柔道整復師でもあった。あれはたしか厚生労働省の所管だが、規制緩和の結果として、技術が十分に身につかないケースが出てきた例。他にも同じような例があるのではないか。規制緩和はとてもよいことであり、大いにやるべきことだと思う。しかし、上手くいかなかった時の結果責任を誰がとるのかという問題がある。

 この種の学校についても、方向としては間違っていないと思うが、結果、うまくいかなかったときにどうするかをきちんと決めておかないと、そこに携わった学生や、それに関わった関係者はいい迷惑をしてしまう。そういったところまで考えておかねばならぬというところだけはよろしくお願いします。

・・・・・ 

 これに対し、八田達夫議員から以下のような発言があった。

・・・・・ 

 今度は、獣医学部です。

 獣医学部の新設は、創薬プロセス等の先端ライフサイエンス研究では、実験動物として今まで大体ネズミが使われてきたのですけれども、本当は猿とか豚とかのほうが実際は有効なのです。これを扱うのはやはり獣医学部でなければできない。そういう必要性が非常に高まっています。そういう研究のために獣医学部が必要だと。

 もう一つ、先ほど農水大臣がお話しになりましたように、口蹄疫とか、そういったものの水際作戦が必要なのですが、獣医学部が全くない地方もある。これは必要なのですが、その一方、過去50年間、獣医学部は新設されなかった。その理由は、先ほど文科大臣のお話にもありましたように、大学設置指針というものがあるのですが、獣医学部は大学設置指針の審査対象から外すと今まで告示でなっていた。それを先ほど文科大臣がおっしゃったように、この件については、今度はちゃんと告示で対象にしようということになったので、改正ができるようになった。

 麻生大臣のおっしゃったことも一番重要なことだと思うのですが、質の悪いものが出てきたらどうするか。これは、実は新規参入ではなくて、おそらく従来あるものにまずい獣医学部があるのだと思います。そこがきちんと退出していけるようなメカニズムが必要で、新しいところが入ってきて、そこが競争して、古い、あまり競争力がないところが出ていく。そういうシステムを、この特区とはまた別にシステムとして考えていくべきではないかと思っております。

・・・・・ 

 根本思想が共有されていないことが明確である。麻生副総理・財務大臣規制緩和で学部・大学を作って、失敗した時は学校法人が倒産して終わりということで良いのか?養成された獣医師の質の確保の維持・向上の方法と、学校法人の経営がいきずづまった時、通常の商法・会社法といった通常の商取引と同様に処理してよいのかを問うている。法科大学院の例があるからである。これに対し、八田教授は市場原理に従った適者生存で良いし、現在獣医師を巡る問題が出てきているのは、既存の16の獣医系大学・学部の中にレベルの低すぎて退場すべきものがあるからだと言いきっているのだ。

 しかし、続く議論はなく異議なしとして承認されてしまう。麻生副総理・財務大臣といえども諮問会議においては「議案を限って、議員として、臨時に会議に参加させることができる」(法33条2項)臨時議員でしかないからである。これにより「現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設」が認められる、即ち、広域的地域として既存の獣医師系養成大学等のない四国に限り獣医学部の新設を認める方針が決定されたのである。

 諮問会議後、山本地方創生担当相は記者団の質問に対し、以下のように答えている。

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問: 獣医学部の設置についてお伺いいたします。

  今治市など複数の特区が提案を出していると思うのですけれども、どこを一番有力視してやっていかれるのでしょうか。

答: 本件は、これから制度を作るのですけれども、限定された、獣医学部が基本的に広域的存在しないようなところを念頭に置くことになりますが、まず制度を変えて、それから具体的に申請等が出てくることになりますので、現時点ではどこだという話は今のところできません。

問: 地域選定のスケジュール感というのはどのようにお考えですか。

答: 近々に制度自体は作るようにしますので、その後、区域からの申請を受けて、それからの話となると思います。早ければ、年内も申請という話になってくるのではと思います。

問: 基本的には、今ある特区の中で選定していくというイメージで構いませんでしょうか。

答: 特区の制度ですから、特区の中から申請を受けて検討します。

問: 新たに特区を指定することを念頭においては。

答: 今は、そこまでは考えておりません。

問: 文科省の告示を変える必要があると思いますが、それは新たな告示を出すというイメージなのか、それとも今ある告示を改正していくというイメージなのか具体的に検討されてますでしょうか。

答: 今ある告示を改正することになるのかなと思いますが、正確には文部科学省に聞いてください。

・・・・・ 

 8月3日に山本幸三氏が担当大臣に着任して3か月、石破4条件の確認が重要との認識が再確認された今治市分科会から6週間、4条件には一言も議論されないまま、方針が決定されたのである。

 この方針の決定を受けて、獣医学部新設を禁止していた文科省告示を解除する告示案がまとめられ「上記趣旨を満たす平成30年度に開設する獣医学部の設置」と期限を付した上で、11月18日から12月17日の期間でパブリックコメントの募集手続きが行わる。結果は2017年1月4日に公示されるが、同日付で告示案は内閣府文部科学省共同告示といて正式に定められる。

 更に、同日付で、実際に今治市獣医学部を新設しようとする事業者の公募(形式的には「広島県今治市国家戦略特別区域会議構成員(特定事業を実施すると見込まれる者)の公募」)が11日までの起源で行わる。10日に応募した加計学園以外には応募があるはずもなかった。

 翌12日、この結果を審議する第2回今治市分科会が開催され、初めて加計学園が区域会議構成員として承認され、学園側から獣医学部の新設構想について公募資料に基づき説明が行われた。しかし、この会議も今治市の特区で同時に認定さえた道の駅設置者民間拡大事業についての説明とあわせて46分と短く、獣医学部の4条件に合致するかを認定するための議論はない。最大の焦点である「既存の大学・学部では対応が困難な場合」を満たすためにどのような教育内容が行われるかについても「実際のカリキュラムが明らかになってシラバスの内容が出てきたときに、かなり詰めていかないとならないとはおもっております。[xxviii]」という段階である。大学から大学院レベルの講座の場合、学問分野や実務経験が講座の内容に合致する教員でなければ講義などできない。新設の学部・大学院の場合、カリキュラムの詳細は担当予定教員自身が、カリキュラム全体の趣旨を理解した上で、それぞれの講座(通常4単位、90分授業で15回程度)のそれぞれの講義で具体的なアウトラインと参考文献等を例示したシラバス(講義案)を作成しなければならない。そのためには、申請時点で当該講座の担当予定教員が内定していなければならない。設置審では、それぞれの講座ごとに担当予定教員の学歴、職歴、研究業績が審査され、当該講座を教える教員としてふさわしいかどうかが審査されることになる。加計学園はこの2か月後に設置審に申請しているわけだから、どのように間に合わせたというのであろうか。

 こうして、北村直人氏が懸念した通り、4条件は歯止めとしての機能を果たすことなく、獣医学部新設が決定した。石破氏自身も自分の離任後わずか3か月で新設が内定したことに関し、不信感を示している。

 ・・・・・

 不思議ですよね。なぜ大臣が代わることでこんなに進むのか。新たな条件がでるのか。世間で言われるように、総理の大親友であれば認められ、そうじゃなければ認められないというのであれば、行政の公平性という観点からおかしい。[xxix]

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[i] もちろん加計学園も、不認可になったとしても条件を満たすよう再申請することは可能である。

[ii] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai2_3jp.pdf

 

[iii] 後述するように、京都産業大学が新設要求を断念せざるを得なくなったのは2016年11月9日の国家戦略特別区域諮問会議において「現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り」との限定を付されたからである。

[iv] 石破茂オフィシャルブログ 2017年6月2日付http://ishiba-shigeru.cocolog-nifty.com/

 

[v] 出典同上 石破氏は6月2日の時点で書いているから、内閣府側の説明責任問題と書いているが、ここでは審査のプロセスで内閣府部内で閣議決定は扱われた経緯を説明している。

[vi] 今治市のホームページによれば6月4日となっているが、内閣府側の議事録では6月5日である。

[vii] 今治市ホームページ 国家戦略特別区域これまでの流れhttp://www.city.imabari.ehime.jp/kikaku/kokkasenryaku_tokku/

 

[viii] 今治市自身も「しまなみ海道今治新都市を中核とした国際観光・スポーツ拠点の形成」事業を追加提案している。

[ix]石破内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成27年12月15日http://www.cao.go.jp/minister/1510_s_ishiba/kaiken/2015/1215kaiken.html

 

[x] 国公立大学の獣医学系学部の再編・統合が平成10年代に検討されていたが、結局合意を見ることがなかったが、2012年度より、北海道大学帯広畜産大学(共同獣医学課程)、岩手大学東京農工大学(共同獣医学科)、山口大学鹿児島大学(共同獣医学部)の3組において、2013年度からは岐阜大学鳥取大学において、共同教育課程の取り組み(共同獣医学科)が開始されている。

[xi] 日本獣医師会雑誌  第68巻 第9号 2015 546~547

http://nichiju.lin.gr.jp/mag/06809/a2.pdf

 

[xii] 日本獣医師会雑誌  第68巻 第11号 2015 670 http://nichiju.lin.gr.jp/test/html/mag/06811/a2.pdf

 

[xiii] 今治市しまなみ海道今治新都市を中核とした国際観光・スポーツ拠点の形成」・国家戦略特別区追加指定提案2015年12月8日http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h27/150605imabari_shiryou01.pdf

 

[xiv] http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H26/H26SE178.html

 

[xv] 広島県今治市国家戦略特別区域会議(第1回)2016年3月30日における石破大臣発言 議事要旨10頁 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/hiroshimaken_imabarishi/dai1/gijiyoushi.pdf

 

[xvi] 広島県今治市 国家戦略特別区域 区域計画 2016年4月13日 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/kuikikeikaku_hiroshimaimabari_h280413.pdf

 

[xvii] 各指定特区毎の諮問会議の経過報告を行った国家戦略特別区域諮問会議(第21回)(2016年4月13日)においても今治市関連報告部分には獣医学部新設に関しては触れられていない。

[xviii] 国家戦略特別区域法は、当該特区で行うと認められた「特定事業を実施すると見込まれる者」を特別区域会議に正式な構成員として加えることを認めている(法7条2項)しかし、それは「公募その他の政令で定める方法に選定」(同項)された者であるから公募で選ばれる必要がある。加計学園岡山理科大学今治市の特区に獣医学部新設事業者として公募(公募期間は2017年1月4日から11日)に応じたのは2017年1月10日であり(毎日新聞2017年1月11日地方版)、1月12日の第2回今治市分科会で特区会議の構成員に加えることが決定し、1月20日広島県今治市特別区域会議に報告されている。

[xix] 国家戦略特区ワーキンググループ・ヒアリング(議事概要)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h27/150605_gijiyoushi_01.pdf

 

[xx] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai23/shiryou3.pdf

 

[xxi] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/hiroshimaken_imabarishi/imabari.html

 

[xxii] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/160930goudoukuikikaigi.html

 

[xxiii] 区域計画の改定の正式認定は2016年10月4日の第24回国家戦略特別区域諮問会議による。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/kuikikeikaku_hiroshimaimabari_h281004.pdf

 

[xxiv] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai24/gijiyoushi.pdf

 

[xxv] 同上

[xxvi] 第24回諮問会議において、安倍総理は会議の閉会のあいさつとして「法改正を要しないものについては直ちに、法改正を要するものは次期国会への法案提出を視野に、それぞれ実現に向けた議論を加速してまいります。」と述べてがだけである。

[xxvii] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai25/gijiyoushi.pdf

[xxviii] 吉川泰弘・加計学園新学部設置準備室長のコメントhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/hiroshimaken_imabarishi/imabari/dai2_gijiyoushi.pdf

 

[xxix] 週刊文春2017年4月27日付、30頁

ちゃんとわかりたい人のための前川問題 -加計問題にみる政官関係― part 2

2.文書が本物と立証されたところで問題は何一つ解決しない

 マスコミと野党の焦点は、この文書が本物の文科省職員が作成したメモであるかどうかに集中しているが、それでは大した意味がない[i]

 役所の中では日々、膨大な情報がメモ書きされ共有されている。その中には根拠のないうわさも含まれる。流言飛語や怪文書の類であっても、それにより現実の政策形成に影響されるのであれば、否定を含めてそれなりの対応が必要になるからである。「官邸の最高レベルのご意向」という情報があったとしても、文科省としては①無視する(聞かなかったことにして淡々と省庁側の判断で推し進める)、②「官邸の最高レベル」に直接コンタクトできるレベルが本当にそうした「ご意向」であるかを確認する(確認されてあえて認める可能性は低いことを確認することは反対の意思を伝えることに等しい)、③「ご意向」に従い忖度して進めるという選択肢のどれを選択するかを判断する必要がある。官僚の決定は、政治家によって民主的正統性を初めて付与される以上、官邸のご意向を予想して対応を決めるのは当たり前のことに過ぎず、「ご意向」を受け止めたとしてもそれが直接問題となるわけではない。

 加えて、内閣府担当審議官から「官邸の最高レベルのご意向」という発言が文科省の内部文書に記載されていたとしても、それで何かが立証されることにはならない。内閣府担当審議官にしてみれば、自分はそうしたことは言っていないし、文科省側の記録にそうした記載があったとしてもメモの作成者の誤解だと言い逃れることが可能である。実際に本人は「内閣府として『官邸の最高レベルが言っている』とか『総理のご意向だと聞いている』というふうなことを申し上げたことは一切ない」「総理からの指示等も一切ない」と国会で否定している[ii]文科省側が音声記録まで残していて、審議官が実際にそうした発言をしていたことが明白になったとしても、審議官自身がそう思っていたことが立証されるだけであって、官邸が圧力をかけていることの証拠にはならない。

 そもそも国家戦略特区の話である。各省庁に任せていては既得権や過去の経緯によって新しい挑戦ができないから、官邸主導の特区の枠組みで岩盤規制を突破しようというのである。各省庁から見て政治的圧力すら感じられないのであれば意味がない。文書が実物とわかっても官邸側に失うものなど本来何一つない。

 結局、文書の真実性を問うのは稚拙だ。安倍総理のいう印象操作以上の価値をもたない。もちろん、印象操作は内閣支持率に影響するから、政治的攻勢の一つとして意味があるが。

 なお、今日(9日)になって、松野文科相は閣議後記者会見で、存在の有無を再調査すると発表した。想定通りというほかない。しかし、今回の対応は官僚に対し極めて大きな影響を与える。後述するように官邸の前川前次官に対する激しい人格攻撃は、官僚の萎縮を招くであろうし、情報の省内共有手続きがこうして広く知られることになったことで、こうした部内文書の管理は一層徹底され政策決定過程の透明性は著しく後退することになると考えられるからである。影響は好ましい方向であるはずがない。

 

[i] もちろん僕は、そうした報道は野党としても不本意だろう。しかし、国会の中での議論を逐一フォローしている国民はいない。野党の攻め方とマスコミの報道姿勢のどちらに問題があるかは現時点でよくわからない。断片的な情報で批判することはお許しいただきたい。

[ii] 朝日新聞2017年5月18日http://www.asahi.com/articles/ASK5L3HG7K5LUTIL00X.html

 

ちゃんとわかりたい人のための前川問題 -加計問題にみる政官関係- part 1

 文部科学省の前川喜平・前事務次官の告発によって、政と官の関係が注目を集めている。多くの人が様々な議論を提起しているが、問題点が整理されておらず隔靴掻痒そのものだ。結論を言うと、この問題は大問題だ。

 まず、高等教育機関の設置を「特区」という極めて部分的措置を議論する枠組みで決定してはならない。岩盤規制突破のために各省庁の抵抗を政治主導で突破するという大義は重要だが、本件はそういう種類の問題ではない。加えて、官僚の独立性は「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」(憲法15条2項)によるものであって、総理大臣が言っているからだの官房長官に人事権が握られているからだのと言うべきことを言わないのは公職に奉職する者として自殺行為だ。文科省は、大臣も幹部職員もモゴモゴ言っているだけでロクに反論もしないのであれば存在価値がない。問題の背景を適切に理解していない似非有識者の感情的コメントに流されてはならない。加えて、前川前次官の告発の意味はワイドショー流に過大評価すべきではない。

 僕は、大学教員として学部新設事務の経験と官僚としての経験の両方を持ち、学者としても論文を書いたことがある専門家の一人として書いておく必要があると思う[i]

 

1.文書はホンモノであることは明白

 問題は、愛媛県今治市加計学園の経営する岡山理科大学獣医学部を新設要求に文科省として疑義を呈していたことに対し、国家戦略特区制度を所管する内閣府の担当審議官が「官邸の最高レベルが言っていること」として押し切った経緯を記した文書が文科省側から流出したことである[ii]。菅官房長官が記者会見で出所不明な「怪文書のようなもの」と切り捨て、松野文科大臣も「行政文書としては存在が確認できない」としていたのに対し、文書の流出元と噂される前川前事務次官が記者会見して「現職時代に自分も見せられた文書であり本物である」と反論したことで、急速に注目を集めた。

 結論から言うと、この一連の文書が本物であることは議論の余地がない。当事者である前川氏や匿名の現職職員が本物であると認めているからである。文書の形式から言っても、添付ファイルで10名程度の関係職員に送られていたことが、併せて流出した送信記録から明らかになっている。最高度の機密情報でメモにもならない例外もあるが、中央省庁では何でもメモにして記録する。役所は組織で意思決定するので、情報が共有されていることも記録する必要があるからである。文書を添付ファイルでメールを送るという行為は、その情報が組織のどの範囲で共有されているかを確認し記録する行為でもある。

 念のために言うと、直接にせよCCにせよメールで送るということは、相手にプリントアウトして読めということ要求していることになる、しかし、局長や局次長に当たる審議官といった偉い人は、自分でメールを開いてプリントアウトするといった面倒くさいことは普通はやらない。偉い人には、プリントアウトした紙を持ち込んで説明するか、秘書に渡しておく。CCの欄に局長級まで含まれているのは、他の関係者に彼らにも情報が届いていることを確認させるためである。

 こういう背景を理解すれば、この一連の文書は最高機密情報とは意識されていたわけでないことがわかる。内閣府文科省の打ち合わせの場合、とりまとめ側である内閣府に対応側である文科省が出向く形が通常であり、「打合せ概要」と題された議事録には文科省側の出席者は専門教育課長と(同課の)課長補佐の2名の記載しかないから、文科省から2名しか出席しなかったものと思われる。役所に戻って課長補佐氏がメモを作成し、課長の了解を得たうえで、課長補佐の下の企画係長がメールで関係各所に送信したのだろう。送信先民進党が公開時に黒塗りしているので不明であるが、14アドレスに送信されている。CCアドレスの中に課長名しかなかったとしても、課長は課内の担当者にも文書を渡している可能性が高く、CCで挙げられている者以外にも同じ文書を持っている関係者はいるだろう。従って、この程度の情報を秘密にしておくのは困難であって、文書の真実性が明らかになるのは時間の問題でしかない。

 

 

[i] 宮本 融 「日本官僚制の再定義-官僚は「政策専門家」か「行政管理者」か?-」日本政治学会編『年報政治学』2006-Ⅱ 木鐸社 2007年3月

[ii] 文書の一部を、民進党加計学園疑惑調査チームがHomepageで公開している。https://www.minshin.or.jp/article/111935/%E5%86%85%E9%96%A3%E5%BA%9C%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E5%9C%A7%E5%8A%9B%E6%96%87%E6%9B%B8%E3%82%92%E5%85%B1%E6%9C%89%E3%81%97%E3%81%9F%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%AD%98%E5%90%A6%E3%82%92%E8%BF%BD%E5%8F%8A%E3%80%80%E5%8A%A0%E8%A8%88%E5%AD%A6%E5%9C%92%E7%96%91%E6%83%91%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%A0