解散の予兆の感じ取り方

 2週続けてHBCラジオでコメントしていたので、今週も水曜日に話をすると思われていくつかご連絡いただいたが、残念ながら今週は出番がなく次回は9月28日になる。国会開会日であり、解散となる予定日である。

 

解散の予兆の感じ取り方

 

 日々の政局の動きを一番よく知っているのは、もちろん最前線で取材している大新聞の政治記者である。本当にご苦労なことだと思うが、与野党の中堅以上の政治家に張り付き、決して使われることのなさそうな発言でも全てメモにして、政党や官邸といった担当ごとに配置されているキャップに報告する。そうしたメモを基に記事を書き、本社のデスクにあげて、そこで調整して記事が成立する。従って、新聞社には毎日大量の情報が蓄積されているが、記事にされているのはそのうちの本当に一部なのだ。

 しかし、新聞社の外にいる一般市民はそういうことはわからない。なら、どういうことでその予兆を感じ取ることができるのか。

 

 今回の解散への意思決定過程がだいぶ明らかになってきた。それによると自民党は9月上旬に情勢調査を行い、その結果は「自公で過半数は確実」や「自公で2/3近くいくのではないか」と解釈されるものであり、それが決定的影響を与えたようだ。9月上旬実施といっても、世論調査実施を決断してもすぐできるわけではない。もともと都議選前には、8月27日の茨木県知事選に勝利して10月の補欠選挙に全勝すれば年内解散という見通しが多数だった。加計問題で、今治市の隣の愛媛3区での苦戦が伝えられると、それなら補欠選挙に総選挙をぶつけて吸収してしまえばよいという意見もあったが、都議選で惨敗し、内閣支持率の急落も明らかになってそれどころではなくなってしまった。だから、9月上旬の調査は、6月くらいの段階でそもそも予定していたものを、内閣改造後、支持率が急回復していることを受けて、そのままやってみたということだろう。

 ちなみに、9月に入ってから発表された内閣支持率調査の結果は以下の通りである。 

実施日

実施社

支持(%)

不支持

9月2~3日

JNN

44

36

 

共同通信

44.5

46.1

 

毎日新聞

39

36

9月8~10日

NHK

44

36

 

朝日新聞

38

38

 

読売新聞

50

39

 

NNN

42.1

41

 

各社調査方法が異なるし、各社の立ち位置を反映して質問の順番が違うので[i]、単純な比較はできない。電話でも機械の音声で聞くのと、オペレーターが聞くのでは反応が異なるし、「〇〇新聞ですが、調査にご協力いただけますか?」と切り出されるとその社に反発する人は回答を拒否する場合が多く、その社のスタンスと思われるものに迎合する回答が多くなることも知られている。しかし、趨勢を見れば支持率は回復傾向にあることは明らかである。現在の小選挙区制下では支持率1位の政党が議席配分では圧勝することになるから、2/3近くの議席を取れることになるというのも納得である。

 今明らかになっている情報では、9月10日の夜、安倍総理は麻生副総理を私邸に招き1時間半(20時20分~21時50分)懇談し、その際、総理の方から「近く会談したい」と切り出すと、以前から早期解散論を唱える麻生副総理はそれに強く賛成し10月22日の補欠選挙にぶつける案を主張したとされる。翌日、総理は官邸で、規制改革推進会議に出席した後、二階幹事長を呼び会談し(11時25分~59分)、その後山口那津男公明党代表が入り与党党首会談を行っているから、総理の決断が伝達されたのは10日であったことは間違いがない。しかし、11日は新聞の休刊日であって、2日分の総理動静は12日の新聞に載っている。政治記事も2日分が1日分の紙面になるから、この段階ではこうした動きを解説する記事もない。その段階では関係者の情報管理も完璧であったのだろう。もちろん、後からテレビ各局は副総理の車が総理私邸を訪問するところを報じているから、政治記者は会談内容の確認に走り回っていたはずであるが、解散が報じられたのは実際に公明党が選挙準備に動き出した後の17日夕方になる。

 

 僕自身は、総理動静を毎日チェックしているわけでもないから、こんな動きは全く知らない。今回の解散の予兆を感じたのは、総理訪米の予定がなかなか発表されなかったことだった。9月13日に、夏休み中のHBC小川アナに代わって番組を進める加藤アナから「『トランプ大統領訪日要請を検討』とこの時期に発表されるのは北朝鮮情勢の緊迫化と関係があるのか?」と聞かれ、「総理が国連総会に出席するのは恒例行事であり、ニューヨークまで行けば大統領との首脳会談となり、その際の『お土産』として11月ベトナムで開催されるAPEC首脳会議出席のためにアジア歴訪の際の訪日を要請しておくのは当然のことである」との解説をさせてもらった。その際に、外務省の報道発表を確認したが、その時点では総理の国連総会出席が発表されていなかったのが気になった。そこで、大手新聞社で国際政治を扱う友人に聞いてみると、「総理は臨時国会冒頭解散を諦めておらず、国会開会日をまだ確定していない。そのために訪米日程も発表できていない。」という情報があった。外交日程は相手のあることであり何か月も前から交渉されていることなので、その読みはどうなのかなあと思っていたが、9月15日の朝、Jアラートでたたき起こされた時、選挙が近いと確信した。国際情勢は、日増しに緊迫化する。危機の時、現職総理は強い。まして、前回も今回もJアラートから20分後には官邸にほとんどのメンバーが集結し、テレビが登庁の絵を押さえられないほどの機敏な危機対応を見せる内閣である。今後も津軽海峡上空をICBMが完成するまで何度も実験飛行を繰り返すだろうことを考えれば、早めの解散総選挙に大きな異論はでないと考えるのは自然である。北朝鮮建国記念日の9月9日に再度のミサイル実験を行うのではないかと言われていたから、9月10日に麻生副総理を私邸に招いた時点でミサイル実験が実施され国内政治が危機管理モードに移行していることを予想していたのかもしれないと今にしては思う。この時点で事情通である政治学者の友人に聞くと、「選挙は想像以上に近いみたい」とのこと。

 だから、17日の「総理解散決断へ」という情報には驚きはなかった。「この内閣は、ちゃんとしているなあ」という感想である。

 

 日程管理こそ政治の提要と考えていた竹下登元総理の逸話に、「竹下カレンダー」というものがある。竹下氏は、その長い国会対策の経験で、毎年の予算編成や法案審議のスケジュールを手帳に記録し、これから扱わなければならない課題をそのスケジュールにはめ込んで処理するかを考えてきたため、解散といった政治日程の見通しをほとんど正確に言い当てることができた。このため、竹下氏のいう日程の見通しを政治記者が「竹下カレンダー」といったのである。その要素の一つは外交日程である。年次の日程で重要度ナンバー1がG7サミットと国連総会。国会日程で、それぞれの法案の審議時間といった情報は、それぞれの院の事務局に聞かなければならないが、外交日程は事前に公表されているから簡単にチェックできる。

 

 そういえば9月19日は平和安全法制成立2周年ということで、マスコミ各社が取り上げていた。あの時は会期切れ寸前に加えて、総理のロシア訪問の日程も確定していた。当時、自民党の武藤貴也議員が知人に「値上がり確実な新規公開株を国会議員枠で買える」などと持ちかけたとして金銭トラブルとなっていたことが週刊誌で報道され8月に離党していたことから、民進党が9月上旬の段階で懲罰委員会の開催を求めれば、自民党も拒否できない状況にあった。このため、開催まで行かなくてもこの問題で国会日程を1日でも空転させていれば、会期内に平和安全法制を本会議採決に持ち込むことはほぼ不可能であったのに、民進党は、武藤議員の問題を取り上げることなく、法案が成立した。このため僕は、今でも民進党のいわゆる保守派の議員は内心では平和安全法制に賛成だったのであろうと理解している。長島昭久議員はもとより、前原代表だって過去の発言を聞いていれば憲法9条2項の削除に賛成であり、集団的自衛権の限定的行使には賛成であることがわかるというものだ。

 

[i] 「現在の内閣を支持しますか?」と聞き、「支持(あるいは不支持)の理由は、以下のどれが該当しますか?」と聞くのに対し、例えば「北朝鮮情勢にかんがみ、憲法9条の改正を急ぐ安倍政権の姿勢を支持しますか?」と聞いてから「あなたは現在の内閣を支持しますか?」と聞けば、内閣支持率は低めにでる。こうしたバイアスがあるかどうかをチェックするために、新聞社は世論調査の質問の全文と各問への回答の比率を、原則公開している。