第三次安倍再々改造内閣の人事から読めること

 

 政治学者と政治評論家の一番の違いは、目の前で起こっている政局報道にコメントするかどうかだと考えている。学者としては手を出していけない領域だろう。しかし、祭りの日にお座敷がかかった電波芸者としては、気の利いたことを言わなければならない。ちょうど組閣の8月3日にラジオでコメントした。それを、当時用意して使わなかった部分も含めてここにご紹介しておこう。

 ちなみに、北海道の皆様、HBCラジオ夕刊おがわ、次回出演は来週23日です。

  

1.圧勝だった田崎史郎

 組閣人事は、政治記者の花形仕事である。どうせ翌日になれば正式発表されるけれど、各社の予想の正誤が明白になるから勝敗は決する。今回は、田崎史郎氏の圧勝である。

 焦点は、岸田文雄氏がどう動くかであった。支持率低迷に苦しむ安倍政権を見捨て、閣外に去って次を狙うのか。それとも政権を支えるのか。支えるとしてもどういう立場で支えるのか。ポイントは、岸田氏の外相離任がどの段階で決まったのかということだ。田崎氏は、当初から7月6日、欧州連合(EU)との経済連携協定EPA)交渉の大詰め協議に出席するため安倍総理と岸田外相が同席したベルギー・ブリュッセルで交渉終了後二人だけで懇談し、その際、岸田氏は安倍氏を引き続き支えるが、希望としては閣外に出て党側で支えると伝えたと発言していた。更に、7月20日に安倍氏と岸田氏は二人だけで2時間にわたり夕食を共にし、この席で党三役への転出がほぼ決定とも発言していた。

 讀賣新聞は、基本的な流れは田崎氏の発言と同じであるが、それぞれの日程での二人の会話のニュアンスが違う[i]。7月6日に安倍氏の方からポストの選択を求め、20日に岸田氏が党三役を求めたという流れだ。

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「どのような立場になっても、安倍政権を支えていきます」政権運営への協力を明言した岸田氏に、首相は「岸田さんには長く外交を支えてもらった恩義がある。どんなポストでも選んでくれていい」と促した。この時は返事を保留した岸田氏が回答したのは、帰国後の同20日。東京赤坂のホテル内の日本料理屋で首相と会食した席で「外相は外してほしい」と伝え、暗に党三役を求めた。首相はうなずき、「宏池会(岸田派)のことは大切に考えている」と応じた。

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 これに対し、朝日新聞は7月20日の時点で岸田氏の外相続投が決定したが、稲田防衛相辞任というショックを受けて政調会長起用に決断せざるを得なかったとを書いている[ii]。支持率急落を受けての反応として、讀賣は岸田派の協力が不可欠だから岸田氏の希望である政調会長就任を決断したとするのに対し、朝日は以下のように書く。

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 首相にすれば、東京都議選の惨敗や内閣支持率の低下に直面する中、岸田氏が閣外に出て首相批判の受け皿になれば、一気に党内が「ポスト安倍」に向けて流動化する恐れがあった。外相続投はいわば「封じ込め」の策だった。

 ところが、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題で稲田朋美防衛相への批判が高まり、改造まで続投させることができずに稲田氏は辞任。首相は麻生太郎副総理に防衛相兼務を打診したが、麻生氏の都合がつかず、数日間のショートリリーフながら外相の岸田氏に兼務を任せるという事態になった。

 岸田派後見役の古賀誠元幹事長から「首相に言われたらすべて『イエス』と言った方がいい」と助言されていたこともあり、兼務人事もすんなり受け入れた。稲田氏辞任で更に痛手を負った首相としては、改造人事で「骨格」を維持するだけでは党内基盤の安定も望めない。岸田氏の本音が「党三役」にあることを知っていたこともあり、岸田氏の転出を最終的に決断した。

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 「ブリュッセルの誓い」は8月1日付けで発行された『選択』8月号でも言及されている[iii]。もちろん『選択』は担当記者が自紙の紙面では書けない情報を持ち寄りで書くと言われているから、讀賣の記者が書いているのかもしれないが、「ブリュッセルの誓い」はあったと考えておく方が正しいと思われる。安倍政権との距離が、讀賣、産経と朝日、毎日では異なるのは有名だが、そうした普段の距離が内部情報へのアクセスの違いとなっているのだろう。朝日の記事は、悔し紛れの言い訳に見える。

 田崎氏は、首相動静に首相と会食していることが度々報じられていることもあり、ネットでは「田崎スシロー」と揶揄される向きもあるが、政権中枢との近さはホンモノである。NHKや産経にも政権中枢直結と言われる記者がいるが、裏話を直接聞かせてくれはしない。今までは、元TBSの山口敬之氏がディープなネタを明かしてくれることで田崎説を相対化してくれていたが、これからはどうすればよいのだろう?

 

 

2.党内バランスは「挙党一致」

 今回の人事はマスコミの間で評判は高くない。内閣支持率の低下の原因として一番多い回答が「総理が信用できないから」だから、総理を替えない限り人事をいじっても人心一新はできないと指摘されているからだ。その意味では、安倍氏麻生太郎副総理・財務相菅義偉内閣官房長官という内閣の骨格は不変である。

 しかし、安倍内閣に対するこれまでの評価をとりあえず棚上げし、もしあなたが総理側近で人事のたたき台を作成する立場だったらと考えてみてほしい。現時点で安倍総理として何ができるのか。批判する側でなく、政権を支える側だったら、見える景色は相当違う。

 お友達内閣と批判された第一次内閣の反省に立ち、実力者を配し、次期総裁選で戦う可能性のある人物を幅広く要所に配した布陣は、来年9月の総裁選を睨んだシフトとなっている。僕は第2次政権スタート時に原点回帰した「再スタート内閣」だと考える。

 

(1)挙党一致

 今回の人事のミソは、党三役から総裁派閥が引いたことである。細田派は、今回の内閣支持率の低下の原因が、稲田氏の辞任、豊田真由子氏の暴言といった派閥メンバーに多くあったことで「今回は自粛」として猟官運動は低調だった。細田博之氏が総務会長を離任し、三役は二階俊博幹事長、竹下亘総務会長、岸田政調会長となり、選挙対策委員長として塩谷立氏が加わる。党三役に選挙対策委員長を加えて党四役と近年称されているが、これは選対委員長を古賀誠氏が就任するにあたり党三役と同格待遇とすることとしたためであり、細田派の事務総長だった塩谷立氏は総裁派閥として総選挙を仕切るという感じにはならないと言われる。ここから、総選挙は総裁選の後だという観測が出てくる。

 ちなみに、竹下亘氏は国会対策委員長として森友学園加計学園自衛隊日報問題と苦しい言い訳と難しい国会運営に苦慮してきたことへの処遇と考えられるが、昨年10月以降額賀派では総裁候補として影が薄い額賀福志郎氏に会長交代論が浮上していると報じられており、竹下氏の党三役への起用は安倍総理として派閥の代替わりのアシストとも解釈できる。他派閥の人事に手を突っ込むようなことをして、平成会メンバーは心中穏やかなのだろうか。

 

(2)総裁候補を複数作ることによる均衡維持

 閣内を見ると、注目されるのは、野田聖子氏の総務大臣河野太郎氏の外務大臣起用である。前回の総裁選で最後まで出馬を模索した野田氏の起用は、野田氏の封じ込め策だとか、小池百合子東京都知事とのパイプ、あるいは逆にこれから立ち上がる「都民ファースト」国政版に野田氏が連携してくることへのクサビといった説があるが、基本的には「封じ込め」だろう。野田氏としては閣僚として安倍内閣を支える立場になったから、次期総裁選に勝負をかけるというよりは閣僚として力を蓄えるという方向にならざるを得ないのではないか。

 全体として見ると、ポスト安倍と目される人物は石破茂氏を除いてほぼ網羅している。前回安倍氏の体調不良後を引き継いだ麻生氏は、きちんとNo. 2として存在感を示しているし、総裁選出馬を公言する野田氏も入閣した。岸田氏も党の顔として処遇されている。これまで安倍氏の最大の強みは、野党民進党が低迷する中で、党内にもポスト安倍として求心力を持ちそうな人物は石破氏ぐらいだったことであった。その石破氏は、第2次政権発足時には幹事長として処遇したが、昨年8月に地方創生相を退任し閣外に去った後、その発言が取り上げられる機会が減少していた。こうしたNo. 2を作らせない作戦は、支持率低迷の中でもう維持できないとみて、ポスト安倍候補を同列に処遇し逆に一人だけ図抜けたNo. 2を作らせない作戦に転換したのだと考えている。

 石破氏に対しては、石破派の看板となりそうな政策能力の高い斉藤健氏を農林水産大臣に抜擢するとともに、石破氏に近いながら石破派には加わらなかった梶山弘志氏、小此木八郎氏をそれぞれ地方創生相、国家公安委員長に起用して石破氏の手足を封じた形となっている。ポスト安倍候補は、岸田氏60歳、野田氏56歳、と年齢的に若く、リスクを承知で来年の総裁選に勝負をかける必要は小さい。この政権で一年間着実に実績を上げ、支持率40%台を維持しつつければ、総裁三選を狙える可能性は見えてくるのではないか。窮地に陥った安倍総理が人事権を行使して、来年9月の総裁選をどのように戦おうとしているのかが明確になったと考える。

 

(3)「仕事師内閣」の実像

 最近の閣僚は、実務能力を求められる。国会中継は昔から行われているが、野党の意地悪い質問と雖も立ち往生すれば、そのシーンが切り取られて繰り返し放映され、内閣支持率に大きく響く。1980年代末の消費税導入時には、テレビ番組で税制改正の説明をするのは大蔵省の主税局長だったが、政治主導が謳われて久しい現在では政策課題の議論は国会議員が行わなければならない。実務能力の高さに定評のある政治家は、困ったときに繰り返しお声がかかる。「ミスターピンチヒッター」のあだ名のある林芳正氏はその代表格であるが、今回も小野寺五典氏の防衛大臣への再起用、上川陽子氏の法務大臣への再起用と目立つ。

 今回の閣僚では、東京大学出身者が7名、法学研究科修士課程を卒業している小野寺五典氏を含めると8名と比率が高いことが指摘されているが、確かに高学歴が並んでいる。

 しかし、それ以上に目立つのは19名のうち11名という二世議員の比率だ。一昔前なら、政策能力の高さといえば官僚出身者だったが、官僚出身者はなんと3名しかいないのである[iv]。この国の政界は、完全に階級社会になってしまっていることがわかる。

 

 

3.「河野太郎外務大臣」というサプライズ

 今回の組閣で唯一といえる「サプライズ」は河野太郎氏の外相起用である。田崎史郎氏の圧勝という評価も、彼が事前に「サプライズがあるでしょう。『彼』にとってもサプライズになるでしょう。」と予測していたことにある。田崎氏以外にこれを予想していた評論家はいない。

 僕が今回の内閣を「再スタート内閣」だと考えているのは、河野氏を外相に起用することで北朝鮮関係の打開を目指していると思うからだ。安倍氏が総裁候補として一気に浮上したのは、拉致問題で毅然とした態度を示したことにある。原点回帰なら、北朝鮮外交で得点を挙げることだ。

 

(1)「河野太郎首相」の可能性はあるか?

 政治家として首相を目指すなら、一昔前ならまず派閥の領袖になることであった。カネを集め、それを配る。自らの派閥に所属する議員を増やし、領袖間で行われる合従連衡の駆け引きに勝ち残り、総裁選での勝利を目指す。その過程で、初入閣で軽量級の大臣ポスト、再入閣で自らの得意分野の大臣ポスト、そして大蔵大臣や外務大臣といった主要閣僚ポストを務めるとともに、党務でも国会対策を経験した上で党三役、中でも幹事長を経験する。そうして政策能力も調整力も資金力も高めていく。それが、従前の自民党政治だった。三角大福中といわれた領袖たちの競い合いの結果、5人は全員総理になった。

 しかし、派閥の領袖が派閥の票をまとめて総裁選に勝利した事例は、1998年の小渕恵三氏を最後に登場していない。森喜朗氏は、小渕総理が脳梗塞で入院したのを受けて後継指名を受けたとされている。しかし、この段階で小渕総理は人事不省に陥っており病室に集まった5人の談合で当時幹事長として党のNo. 2であった森氏が決まったのではないかとの疑惑がついてまわった。森内閣の支持率低迷を受けて行われた2001年の総裁選では、地方票で圧倒的勝利を収めた小泉純一郎氏が、国会議員票で優勢を伝えられた橋本龍太郎氏を逆転して勝利する。その後、総理・総裁の座は、小泉氏から安倍氏福田康夫氏と継承されるが、二人とも小泉の属する清話会のメンバーであり、派閥の領袖は森喜朗氏である。その次の麻生太郎氏は、派閥の領袖の勝利という意味では当てはまるように見えるが、実質的には福田氏の突然の退任に伴い解散総選挙の実施を託された後継指名であり、直後に発生したリーマンショックに際し解散をためらったため翌年任期末解散で大敗し自民党は政権を失う。野党に転落した直後の総裁選で勝った谷垣禎一氏は、派閥の票をまとめた勝利であるが、谷垣氏が所属していたのは古賀誠氏が会長を務める宏池会である。谷垣氏の次が安倍氏であるが、この時安倍氏の所属する清話会の会長は町村信孝氏であり、町村氏自身も総裁選に出馬していた。

 こう見てくると、自民党の総裁選のシステムは変化してしまっている。小選挙区の下、公認権は党本部中枢に一元化され、派閥は総裁選を戦うグループとしては存在するものの鉄の結束を誇る組織ではなくなった。総裁選では、党員票が大きなウエイトを占めるし、各議員は自らの次の選挙を念頭に「誰が総裁なら勝てるのか?」を最優先に行動するようになった。現在ポスト安倍と目される人物で、派閥の会長を務めるのは岸田氏だけだ[v]。最近の総裁選を見ていると、「この局面を突破するならこの人しかない」という世論の期待を受けるという「逆転サヨナラホームラン」戦略の方が、政治資金を醸成し派閥を養い数を頼んでという戦略より確率が高いことがわかる。

 それでは、河野太郎氏が首相になる可能性はあるだろうか?『一匹オオカミ』の直言居士で知られるから、無派閥のイメージが強い。しかし現実には、当選直後こそ無派閥であったものの、麻生太郎氏の説得で宮澤喜一時代の宏池会に入り、1999年に麻生氏と父の河野洋平氏が宏池会から離脱して河野グループを結成した時にこれに従い、現在は麻生派に所属している。彼を変人扱いしているマスコミは多かったため、2015年に入閣した時に持論を封印して職務に徹したことを意外と評価する向きが多かったが、人間的にはもともと変人ではない。

 それでは、河野氏が期待を集める局面として予想されるのはどのようなケースが考えられるだろうか。本人も「逆転サヨナラホームラン」戦略を意識しているのか、2009年の総裁選に出馬した時のウリは、年金改革だった。河野氏は、河野洋平氏に対する生体肝移植のドナーとなったこともあり、臓器移植法は私案も作成したこともあるし、可決された法案の提出者でもある。かかるように厚生行政には詳しい。反原発の立場を取ることも有名であり、自然エネルギーの利用促進を目的としたRPS法の成立過程でも大きな役割を果たしている[vi]。Johns Hopkins大学留学経験がありワシントン政界に太いパイプを持つ一方で、日韓議員連盟の交流はもとより韓国との関係も熱心であったことから、現在の北朝鮮を巡る情勢で活躍も期待できる。問題は、「河野談話」の息子ということで、安倍政権では外交で活躍する場面はないと思っていたが、ここで外務大臣に起用ということになった。

 外交でホームランを打てば、総理への期待が広がる。幸いにして拡大しつつある麻生派には、76歳の麻生太郎氏以外に総理候補はいないから、一気にポスト安倍レースの先頭に立つことだって可能かもしれない。

 

(2)北朝鮮との打開策

 田原総一朗氏が、稲田朋美氏が防衛大臣を辞任した7月28日に1時間半にわたり首相と面会しており、田原氏本人が首相に「政治生命をかけた冒険をしないか」と言ったと発言して注目を集めたが、だれがどう考えても「冒険」の内容は北朝鮮外交の打開だろう。田原氏は「小泉のように平壌に行け」と言ったのだろうと個人的には思うけれど、首相が平壌に乗り込むためには事前の裏交渉が必要である。

 安倍政権においては、これまで飯島勲氏が密使として動いていたが、ここまでは成果を上げていない。安倍外交は、外務省の正式ルートとは別に、官邸の国家安全保障局長を務める谷内正太郎氏の動きがあったり[vii]、ロシア外交では今井尚哉首相秘書官を司令塔とする経産省ルートがあったりして、複雑である。

 北朝鮮関係は、特に機密性が高く、わからないことだらけだ。小泉訪朝に至る経緯すら、未だに明らかになっていない。当時、田中均外務審議官の交渉相手であった北朝鮮側のミスタ―Xなる人物がどのような人物であったかが一つの論点であるが、僕も当時田中外務審議官とミスターXの仲介役をしていた外務省の朝鮮語を使える人物にインタビューしたことがあるが、「そもそも北朝鮮は情報が少なすぎる。キムとかパクとか朝鮮半島では一般的な名前を名乗るものの、学生時代の同級生だとか、昔の職場の同僚も一切わからないから、素性を確認する手段もない。結局、交渉してみて、金正日の了解を取ってこれたとか、相手が結果を持ってくるようになって少しずつ交渉するに足る相手だということがわかるだけだ。」という話だった。僕は、首相はそういう国との交渉に「冒険」することは許されないと考えている。だから、リスクを取るとすれば河野外相だ。北朝鮮は、アメリカとしか話をするつもりはないという姿勢だが、アメリカ側の言質をある程度とって仲介にあたる日本の外相なら大きな役割を果たせる。

 しかし、問題はやはりトランプ政権だ。McMaster大統領安全保障問題担当補佐官Tillerson国務長官、Mattis国防長官が不規則発言を続ける大統領を羽交い絞めにしているが、それでもTwitterは止まらない。Tillerson長官が考える国務省の人事に大統領府が介入したこともあり、8月だというのにいまだに国務省の人事が定まっていないのでは外交にならない。Tillerson長官が経験あるのは石油を巡るロシアとの交渉だけで、外交経験はない。その他は軍人ばかりだ。北朝鮮問題の専門家の誰が大統領に対してアドバイスするのかわからないのでは、河野外相としても頭が痛いところだろう。

 

 

4.僕の予想と異なる人事

(1)甘利明

 7月2日、都議選で歴史的大敗が明らかになったころ、オテル・ドゥ・ミクニで、安倍総理は麻生財務相、菅官房長官甘利明前経済再生相と会食したことが話題になった。

 この4人は第2次安倍政権スタート時の骨格である。その後消費税増税延期を巡り、麻生氏と菅氏の間がきしみを生じていた時に甘利氏が緩衝剤となっていたから、甘利氏が閣外に去ったことでバランスが崩れるのではと心配されていた。だから、僕はこの報道を受けて今回は甘利氏が処遇されるのだろうと考えていた。その際、国会で野党から攻撃を受ける閣僚ではなく、官邸で問題が起こるたびに甘利氏が間に入ることが自然なポストということで、甘利政調会長、岸田総務会長という布陣を予想していた。

 甘利氏を処遇しなかった理由はなぜか。週刊現代は、安倍総理は7月31日にトランプ大統領と1時間も電話会談を行った際、大統領派は「北の建国記念日である9月9日に空爆してやる! 」と言ったと書いている。必死に自制を促したけれど、青くなった総理は、防衛相に小野寺氏の再任、外相に河野氏を決断、甘利氏を経産相にと思っていたがTPPの立役者だからと諦めたという解説を載せている。反安倍の気色鮮明な週刊現代の書くことでは信憑性は高くないが、あるかもしれない。

 今回河野氏を抜擢したことで新麻生派に麻生氏以外の総裁候補を作ることになるが、このことを麻生氏がどのように思うか。大宏池会構想を進め、岸田氏のキングメーカーとなろうとしている、それとも安倍氏に何かあった場合に自らリリーフ登板を心中深く期しているのか。山口敬之氏のレポートでは安倍氏と麻生氏の間には特別の盟友関係があるとされるが[viii]、今後二人の関係がきしむとき、甘利氏の不在は致命傷になるかもしれない。

 

(2)西村康稔

 僕は、地方創生・規制改革担当相は西村康稔氏を予想していた。

 加計学園を巡る問題は、法律的に複雑なものを含み、しかも先日の閉会中審査において「加計学園獣医学部を国家戦略特区の枠組みの中で申請していたのは、正式に決定する1月20日の諮問会議の直前の事前レクまで知らなかった」と総理が言い出したことで、話がややこしくなっている。わざわざ「1月20日まで不知」としたのは、それ以前の度重なるゴルフや酒食を共にしたことが大臣規範に反するからという解説になっているが、矛盾する過去の答弁の方を「誤解があった」と訂正しているのであるから、大臣規範といった生易しい問題を想定した方針転換ではないだろう。

 その中で、今後の国会審議を含めた問題収束のための司令塔の役割を果たすには、国家戦略特区制度制定時の担当内閣府副大臣であり、経産省人脈の結節点である西村氏がふさわしいと考えていた。閉会中審査において柳瀬唯夫経済産業審議官が、今治市が国家戦略特区に申請する以前の2015年4月の段階で、総理秘書官として今治市の課長らと面会していたのではないかと質問され「記憶にない」を7回繰り返したたことが注目を集めたが、午前中の衆議院での質疑で詰問された柳瀬氏に対し、午後の参議院での質疑の前に何事か耳打ちをしていたのが内閣委員会筆頭理事であった西村氏である。

 今回、西村氏は萩生田光一氏の後任として官房副長官となった。当選5回だから入閣してもおかしくはないが、能力の高い西村氏としては働きどころである。

 しかし、加計問題をどう処理するつもりなのかますますわからなくなった。「前任の時代の話だから」と梶山弘志地方創生相に言い切らせて済むと思っているのだろうか。

 

 

[i] 読売新聞「首相、岸田氏に配慮」スキャナー、2017年8月3日付

[ii] 朝日新聞「『ポスト安倍』起用の思惑」時々刻々、2017年8月3日付

[iii] 「安倍と岸田の『密約』」『選択』2017年8月号

[iv] 加藤勝信厚労相(大蔵省)、斉藤健農水相通産省)、中川雅治環境相(大蔵省)の3名

[v] もちろん麻生太郎氏を忘れてはいけないが。

[vi] この経緯は法律制定に向けた市民活動の中心人物であった飯田哲也氏が詳細を書き残している。ただし、この時点で飯田氏らが目指した固定価格買取制度は実現せずRPS(再生可能エネルギーを電力会社があらかじめ定められた一定量を買い取る仕組み)となった。固定価格買取制度が実現されたのは東日本大震災後である。飯田哲成「歪められた『自然エネルギー促進法』

http://www.isep.or.jp/images/press/02iidaEnvSociology.pdf

 [vii] もちろん谷内正太郎氏も外務次官経験者であるが、現役組とは異なる動きをしている例が散見される。

[viii] 山口敬之『暗闘』幻冬舎 2017